83 / 90
珊瑚の宝石
13
しおりを挟む
「シャオグー」
外に出るとカイレンが目の前に立っていた。方向的にシーリウデンへと入ろうとしていたのだろう。すぐに脇に逸れて頭を下げる。
「よい、頭を上げてくれ」
そう言われて頭を上げると、カイレンは少し心配そうな表情を浮かべていた。どうしたのだろう。私が不思議がっていると、カイレンが口を開く。
「逃げる様な足取りだったが」
先ほどの姿を見ての事だろう。そんな風に見えていたのか。早く離れなければとは思っていたが。
「調査の過程で、チーヒ様を少し怒らせてしまいました……今はいかない方が良いかと」
ついさっきの出来事だ。感情的なチーヒの事だ、今日はもう怒ってまともに取り合ってもらえないと思う。
「……よい、元々シーリウデンに用があったのではない、シャオグーを追いかけてきたのだ」
私がシーリウデンの者と一緒にいたから、謝蚕祭の手伝い終わりにシーリウデンへ調査へ行くと予想したのだろう。だがなぜ追いかけてくるのか。そんな疑問が過る。そこから、よく考えてみれば簡単だった。カイレンはチュンジャオを心配していた。だから助けようとしている私を、心配したという事だ。もや。
「そんなに心配ですか、チュンジャオ様が」
何を言ってるんだ私は。つい口に出てしまった言葉を引っ込めたくて、両手で口を押さえる。もちろん意味がないのだが。
「怒っているのか?」
「怒っていませんが」
あんな態度で言葉にしてしまったら、もう隠す意味もないので怒った表情を素直に浮かべておく。いや、別に怒っていない。カイレンが他の女を心配していたところで、関係ないのだ。
「……そうか」
そうか、じゃないよ。納得しないでもらいたい。もう。やりどころのない怒りが湧き始めて、思わずカイレンに背中を向けて歩き始める。チュンジャオの牢がある方向だ。少し遅い時間になってしまったが、確認したい事ができた。
「ヨウズデンはそちらではないが」
「もう一度、チュンジャオ様に話を聞く必要が出てきたので」
「ならば私も行こう」
今明らかに声が弾んだ。調査に進展があった事を察したという事だろう。そんなにチュンジャオが心配ですか。あー、そうですか。もや。
置いて行こうと思って、少し早足になっている私の隣に、カイレンが並んで歩き始める。背の高さ的に置いていける訳もないのに、冷静さを欠いてしまっている。一度息を大きく吸って、冷静さを取り戻すと、より一層足を速める。カイレンはなんて事なくついてきた。
「お前が心配なのだ、あまり一人で動くな、ヨウズデンの外はファンヒのかんざしがあっても、絶対に安心できるわけではない」
ふと最近のカイレンの姿を思い出した。いつも視界の端にいたカイレン。謝蚕祭の準備に出てきた時は、毎度必ずカイレンが見える範囲にいた。あれは私を心配して、いつも見守ってくれていたのか。
「そそそそそそうですか、へぇー」
外に出るとカイレンが目の前に立っていた。方向的にシーリウデンへと入ろうとしていたのだろう。すぐに脇に逸れて頭を下げる。
「よい、頭を上げてくれ」
そう言われて頭を上げると、カイレンは少し心配そうな表情を浮かべていた。どうしたのだろう。私が不思議がっていると、カイレンが口を開く。
「逃げる様な足取りだったが」
先ほどの姿を見ての事だろう。そんな風に見えていたのか。早く離れなければとは思っていたが。
「調査の過程で、チーヒ様を少し怒らせてしまいました……今はいかない方が良いかと」
ついさっきの出来事だ。感情的なチーヒの事だ、今日はもう怒ってまともに取り合ってもらえないと思う。
「……よい、元々シーリウデンに用があったのではない、シャオグーを追いかけてきたのだ」
私がシーリウデンの者と一緒にいたから、謝蚕祭の手伝い終わりにシーリウデンへ調査へ行くと予想したのだろう。だがなぜ追いかけてくるのか。そんな疑問が過る。そこから、よく考えてみれば簡単だった。カイレンはチュンジャオを心配していた。だから助けようとしている私を、心配したという事だ。もや。
「そんなに心配ですか、チュンジャオ様が」
何を言ってるんだ私は。つい口に出てしまった言葉を引っ込めたくて、両手で口を押さえる。もちろん意味がないのだが。
「怒っているのか?」
「怒っていませんが」
あんな態度で言葉にしてしまったら、もう隠す意味もないので怒った表情を素直に浮かべておく。いや、別に怒っていない。カイレンが他の女を心配していたところで、関係ないのだ。
「……そうか」
そうか、じゃないよ。納得しないでもらいたい。もう。やりどころのない怒りが湧き始めて、思わずカイレンに背中を向けて歩き始める。チュンジャオの牢がある方向だ。少し遅い時間になってしまったが、確認したい事ができた。
「ヨウズデンはそちらではないが」
「もう一度、チュンジャオ様に話を聞く必要が出てきたので」
「ならば私も行こう」
今明らかに声が弾んだ。調査に進展があった事を察したという事だろう。そんなにチュンジャオが心配ですか。あー、そうですか。もや。
置いて行こうと思って、少し早足になっている私の隣に、カイレンが並んで歩き始める。背の高さ的に置いていける訳もないのに、冷静さを欠いてしまっている。一度息を大きく吸って、冷静さを取り戻すと、より一層足を速める。カイレンはなんて事なくついてきた。
「お前が心配なのだ、あまり一人で動くな、ヨウズデンの外はファンヒのかんざしがあっても、絶対に安心できるわけではない」
ふと最近のカイレンの姿を思い出した。いつも視界の端にいたカイレン。謝蚕祭の準備に出てきた時は、毎度必ずカイレンが見える範囲にいた。あれは私を心配して、いつも見守ってくれていたのか。
「そそそそそそうですか、へぇー」
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
呪配
真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。
デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。
『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』
その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。
不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……?
「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる