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ユンの希望

05

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「謝蚕祭についてよね」
 着席してからお茶などの準備が終わると、メイユーがそう切り出す。カイレンはそれに対して頷いて見せた。
「一応、役割の知らせてくる様に皇后から仰せつかりましたので」
 警備の統括のはずなのに、そんな事まで頼まれるのか。あるいはカイレンが警備として以上に信頼されている証なのか。そんな事を考えていると、メイユーが少し面倒くさそうな声をあげる。
「忘れてないわ、大丈夫」
 面倒な役割なんだろうか。チュウの話しぶりからして、準備に駆り出されるのは予想していたが、それとはまた別の話だろうか。
 話が終わってしまいそうになったところで、申し訳なさそうにチュウが声をあげる。
「……あの」
「なにかしら?」
「シャオグーに謝蚕祭について説明できていないので、よろしければ説明をいただけないでしょうか?」
「そうか、謝蚕祭は初めてだったか」
 こちらに視線を送ってカイレンがそう口にした。なんとなくだが、みんな私がここに来て日が浅いという事を忘れがちである気がする。自分でもそんな馴染んでいる感覚はなかったが。一員になれているという事に、少し嬉しさを感じながら「お手間をかけます」と小さく頭を下げて返す。
「よい……ではメイユー様への確認もかねて説明しよう」
「じゃあ、お願いしまぁす、ふふっ」
 メイユーがふざけた感じの声をあげた。それに対してなのか分からないが、カイレンが一度咳ばらいをして口を開く。
「謝蚕祭については……シャオグーなら察しがついているのではないか?」
「はい、養蚕の収穫を喜び感謝する祭祀ですね、蚕は女性の象徴と言われているので、後宮で行うのではと」
「そうだ、合っている」
 カイレンが頷くと、なぜかメイユーが自慢げにしている。
「少し話が逸れるが、三月から四月あたりには蚕神祭(ツァン シェン チー)がある、こちらは蚕の神に豊作を祈願する祭祀だ」
 私が来た時期が悪いのだが、本来は豊作祈願があって収穫の感謝の順番だ。少し気持ちが悪いが我慢するしかない。
「謝蚕祭では皇后と上級側妃に毎年順番に……見世物の、役割が回ってくる」
「見世物の役割ですか」
 カイレンが頷いて見せた。見世物の役割。この言葉だけだと意味が取りづらい。毎年使う言葉でみんなが共通の認識を持っているせいで、短縮して役割と呼んでいたせいだろう。カイレンが一瞬言葉に詰まったのは、適当な言葉が思いつかなかったのかもしれない。
「そうだ、謝蚕祭は収穫を喜び感謝する祭祀だ、そのため娯楽的な見世物を行う、その役割を順番に担当しているのだ」
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