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お菓子横領事件

04

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 おそらくミンズーはメイユーから「この人が犯人じゃないかしら」とか囁かれたら、証拠とかそんな物を求める事もなく、無条件で信じてしまうだろう。それだけメイユーは大きい存在だ。
 それにしても、これが第二側妃にまで上り詰めた実力という事か。清濁併せ吞む恐るべき存在だ。どうにかしなければ。
「……いえ、ここでハッキリさせた方が良いのではと思います」
「……あら、いいのかしら、ハッキリさせても」
 自信に満ちた態度。でも私が犯人という手がかりは無いはずだ。何かを口走ってしまった事もない。という事はハッタリという事か。とりあえず犯人が複数なのは、推理できているという事だろう。
 あるいは、やったかどうかなんて関係ないという事か。私に推理されて犯人と名指しされてしまう前に、犯人に仕立て上げ封殺しようとしているのかもしれない。
 できればメイユーの犯行を証明してしまいたいが、なにかお香だけでは弱すぎる。何かないか。必死で考えると、ふとある言葉を思い出す。
「……本当に月餅が無くなったんですか?」
 メイユーの犯行の証明ではないが、これで流れが変わるのではないか。
「……チュウさん、確認したいんですが」
 突然水を向けられて驚いたのだろう。チュウは悲鳴に似た小さい声をあげた。
「な、何でしょう?」
 顔は何でもない様に装っているが、心の臓はそうでもないらしい。早鐘を打っている。
「ミンズーがこの部屋に怒鳴り込んできた時です、その時、ミンズーはお菓子と言っていました、でもチュウさんは月餅が無くなったんですか、と返しましたよね? どうして、月餅と思ったんです?」
「そ、それは」
 チュウが言葉を詰まらせる。目が泳いでいた。それから何とか絞り出したという感じで口を開く。
「そ、そうです、ミンズーが前から月餅を持っていたのは知っていたので」
 お香のせいで嘘の匂いが分からない。だが、私は知っている。それは嘘だ。
「なんでチュウさんが月餅って知ってるの! 今日の朝貰った時、チュウさんは用事で出かけててヨウズデンにいなかったじゃん!」
 ミンズーが高らかに言った。チュウが小さく呻き声をあげる。そうなのだ。ミンズーが月餅を持っていたのは朝だ。それまで持っていなかったと思う。そして朝、チュウはメイユーに何かを頼まれて出かけていた。帰ってきたのはついさっき。月餅の存在に気付く事ができても、それが誰のものかまでは確認する時間はなかった。
 ミンズーはチュウを両手でポカポカ叩く。
「ごめんなさい……ごめんなさい、食事をする時間がなくておなかが減っているときに、偶然見つけて我慢できなくてっ」
 ミンズーは怒りが収まらないようで、ポカポカと叩き続ける。よかった。このままチュウにすべての罪をかぶってもらおう。一件落着である。そう思った時、ユンが声を上げた。
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