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お菓子横領事件

03

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 まぁそんな事は些細な問題である。それよりも重要な事があった。私が食べた時は月餅は一個しかなかった。だが、ミンズーの言葉から月餅は複数あった事がわかる。つまり私が食べる前に、食べた人間がいるという事だ。誠に遺憾である。
 しかし、一番最初に犯人を見つける事ができれば、その人に罪を擦り付ける事が可能だ。私に犯人として名指しされた人のいう事を、みんなが聞くはずはない。ここに初めて来た時にガツンとやっているから、私の推理にはおそらくそれなりの説得力があるはずだ。勝った。
「……シャオグー、何かないの?」
 ミンズーが絞り出す様に問いかけてくる。苦渋の決断という感じの表情。私も容疑者だが、それを差し引いても頼ってしまう物があるという事。予想は当たっていたらしい。
「……シャオグーも容疑者なら」
 口を開こうとしたした所で、メイユーがそんな風に遮った。それからこちらを見て少し微笑んだ後、言葉を続ける。
「その言葉は信用できないんじゃないかしら?」
 もちろんその話は出てきて当たり前だった。そして、予想通りメイユーの口から聞く事になった。おそらく一番の障害はこの人だ。
 メイユーの諭すような声に、ミンズーは小さく唸る。これでは主導権を握られてしまう。すぐさま反論しなければ。
「メイユー様の言う通りですが、このまま無言でいる訳にいかないのも事実です」
「……そうね」
 なぜだかメイユーは、そんな風に言って余裕そうに微笑む。
「こんな事やめましょう、ね? ミンズー」
 そんな事を口にすると、メイユーはミンズーの肩に触れる。心が揺れている様に「むぅ」と唸るミンズー。誰かに罪を擦り付けるのは良くない事かもしれない。このままメイユーが説得を成功させれば、この事自体うやむやにできるかもしれない。ならば邪魔せず任せるべきだろうか。私はメイユーの顔に目を向ける。
「なっ」
 なんという事だろうか。メイユーがニヤリと笑っているのが見える。やっぱり予想通りそういう事なんだろうか。この甘い匂いのお香を焚いたのは、今日はそういう気分だったとか、そういう事ではない。この人がもう一人の犯人で、月餅の匂いを消すためにお香を焚いたのだ。数あるお香の中から、甘い匂いの物を選んだのもそのためだろう。
 メイユーが共犯ならば、このまま任せてしまった方が良い。うやむやにして終わりにしてもらおう。
「ッ!」
 メイユーはミンズーの横に並ぶと、勝ち誇ったような表情を浮かべた。もしかして、うやむやにする気なんてなく、私に罪を擦り付けて終わりにする気か。
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