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後宮案内と宦官の思い

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 宦官の職務は、多岐にわたるという事を聞いた事があった。その性質ゆえに、政治の中枢にまで入って仕事をしているという事も。過去には遊び惚けていた帝に変わって、国を動かしていた宦官もいたらしい。
 そんな宦官の仕事に、警備は含まれないと勝手に思っていた。武官という荒事を仕事にしている者たちがいる。その武官が警備をしているのだから、宦官が担当する必要はない。
「……武官がいるのになぜ宦官が警備を、という顔だな」
「……はい」
 考えを見透かされていた。あるいは、もしかしたらその職務を任された時に、カイレン自身がそう思ったのかもしれない。それで私の考えを見抜く事ができたのか。
「後宮は武官の警備によってしっかり守られている、だから危険が外から中に入ってくることは無い」
 そこまで言って、カイレンは私をじっと見つめる。全てを言うまでも無く、お前ならわかるだろうと言わんばかりの目だ。まぁ確かにそこまで聞いて理解した。
「……中で発生した危険には対処できませんね」
 後宮には例外なく宦官以外の男は入れない。つまり武官は、後宮には入ってこれない。後宮の中で何か危険な事が起こってしまった場合、武官は対処する事ができないのだ。
 後宮の中は恐らく危険が多い。強盗目的の輩が襲いかかってくる様なわかりやすい危険ではなく、嫉妬や憎悪の伴う刃傷沙汰なんかがいい例だろう。
「後宮内の警備は女官がやっているが、それらを統括しているのが私だ、加えて女の身では対処が難しい事が起こった時、私が出張る」
 荒事に対処する姿が想像できない。どちらかと言うと頭脳労働担当のイメージだ。そこまで華奢という訳ではないが、力強さは感じられない。
「なんだ」
 私の態度から何かを感じ取ったらしいカイレンが、問いかけてくる。
「あ、いえ、申し訳ありません、カイレン様の印象から、その……想像できなかったもので」
 ハッキリ言うのも忍びないので、曖昧に返した。
「印象と違うというのはよく言われるが……私は貧しい庶民の出だ、かなり治安の悪い地区のな」
 少し寂しげな表情を浮かべるカイレン。昔を思い出しているらしい。
「そう、なのですね」
 とにかく言わんとする事は理解した。そういう所で生まれ育った為に、荒事には慣れているのだろう。腕が立つという事だ。人は見かけによらない。
「……それで、カイレン様の職務は理解しましたが、さらに疑問が湧きました」
「……なんだ?」
「こんなにウロウロしていてよいのですか?」
 今日も私の尻尾を撫でる目的でヨウズデンに来たようだし。暇なんだろうか。カイレンが怪訝な顔を浮かべた。怒ってはいない様だが、さすがに失礼過ぎたか。
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