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後宮案内と宦官の思い

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「まさかと思いますが、私の尻尾に触れたいのですか?」
 先ほどの問いも、私が撫でられたいと答える事を期待していたのかもしれない。しかし、そんな淡い期待も外れてしまい、作戦を変えたという事ではないか。毛並みが悪いからという口実をこじつけて、櫛を入れてやると言い始めたのだ。櫛を入れるという事は、嫌でも尻尾に触れる事になる。証拠に櫛を事前に用意していたではないか。
「そ、んな訳ある訳ないだろう」
 カイレンが二、三歩後ろに後ずさる。口調がおかしいのは言わずもがな。それより何かカイレンから匂いがした。それに加えて心の臓が早鐘を打ち始めた。表情は全く崩れていないが、内心慌てているのだろう。反応と口調、状況からして嘘をついている可能性は高い。
「私が犬の尻尾などにうつつを抜かす訳が無かろう」
 カイレンの言葉と同時に、先ほどの匂いがした。心の臓の様子も相変わらずだ。これはもしかして、嘘をついている時の匂いだろうか。今のカイレンの心の臓の状態からわかる通り、嘘をつくと平常心ではなくなる。つまり普通の人間では感じ取れない体臭の変化があってもおかしくはない。
 そこまで考えて、数日前にメイユーと初めて会った時の事を思い出す。なぜだか嘘をついていないと感じた。嘘の匂いがしなかったために、本能的にそうわかったのかもしれない。
「おい、どうした?」
 カイレンの声で、体がビクリと強張ってしまう。
「はい?! あっ、申し訳ありません、考え事をしておりました」
 つい深く考え込んでしまった。でもおかげで自分の能力について、少しわかった気がする。
「まぁいい」
 そんな風に口にしながら少し訝しむ様にした後、カイレンは言葉を続ける。
「私は決して触りたいわけではない、がしかし、仕方ないので櫛を入れてやる」
 まだ諦めていなかった。もう支離滅裂と言ってもいいほどの、乱暴な言い分である。そんなに触りたいなら、触りたいと言えばいいのに。触らせる気はないが。
「カイレン、ちょっといいかしら?」
 カイレンと対峙していると、その背後の方からメイユーの声が聞こえてくる。部屋の出入口の方からだ。ちょうどカイレンがいるせいで、見えないが。とにかく助かった。たまたま通りかかったのだろうか。カイレンの影から顔を出す様にすると、メイユーとチュウの姿が見える。先ほど逃げたと思っていたチュウが、助けを連れて来てくれたという事らしい。さっきは疑ってごめんなさい。助けてくれてありがとう。
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