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 それからしばらく歩いて、森の道から少し外れた所に二人で座り込む。とりあえずいろいろ聞きたかった。周りに誰もいないか確認しながら、私はアルネに問いかける。
「さっきのはどういう」
「はい」
 そう問いかけられるのを予想していたらしく、淀みのない答えが返ってくる。
「出会った時に少し話したと思いますが、呪術の力はアンデッドの物と同じなんです」
 確かにそんな事を言っていた。でもそれがどういう風に関係してくるのか。私が首を傾げると、アルネは少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「たぶん認めたくないんでしょう、だから理解を阻んでいる、というより拒否している」
「そう、なのかな」
 詳細は分からないけど、アルネから聞いた話をつなぎ合わせれば予想ぐらいは出来た。それでもきっと認めたくないからだろう。頭がその考えを否定した。私はため息をつく。
「あなたはアンデッド、呪いの力はサミュに力を与える、そして普通の人間は弱体化させる、あの状況はそういう事です」
 あの空間で感じた心地よさ、湧き出てくる力。私は強化され、刺客は弱体化した。アンデッドという証明だ。
 私は頭を振ってから考えを改める。相手を弱体化させて、私は強化される。逃げるには持ってこいの力じゃないか。
「よし、この力を使えば逃げるのは簡単かも」
 私はそう口にする。空元気でも強がりでも、今はそう思わなければ。今は立ち止まって落ち込んでいる時間はない。
「強いですね、サミュは」
「へへ、そうかな」
 一度決めればもうその道一本だ。私はアルネに笑いかける。それを受けてアルネは少し呆れたように苦笑した。
「さぁ逃げないと」
 私は立ち上がって、アルネに手を差し伸べる。アルネは何故か顔を赤くして、少し顔を背けて私の手を取った。可愛らしい子だ。私は少しいたずらな気分になって、アルネをヒョイと抱っこする。お姫様抱っこだ。
「なっ、ちょっと! 何をするんですか!」
 顔を真っ赤にしてアルネが暴れる。ケガのせいなのか元々力が弱いのか分からないけど、全然抵抗できていない。それとも私に、まだ強化された状態が残っているのか。
「こっちの方が早いよ、アルネが私を強化してそのアルネを私が抱えて走る、最高の形じゃない?」
「最高じゃありません! 僕のプライドが著しく貶められています!」
「ほら、静かに」
 私は少し離れた所に刺客がいるのを見止める。声をあげては気づかれてしまう。
「とりあえず、アルネの傷が治るまでは、そっちの方が合理的でしょ」
 傷ついた体で走り回れば傷が治らない。傷が治らなければ、逃げるのにも支障をきたす。そこまできっと考えたのだろう。アルネは大人しくなって「……お願いします」と呟いた。
「さぁ逃げよう」
 私が微笑んでそう言うと、アルネは顔を赤くして少し背けて「はい」と言った。お姫様抱っこだから顔が近い。それで照れたのかも。可愛い子だ。こんな状況だけど私はドキドキしてしまう。アルネに出会えてよかった。少しばかりこの苦難が、和らぐ気持ちがした。
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