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「申し訳ありません、大丈夫」
少年はその口から、とても苦しそうながらも心地の良い低音の声を響かせる。顔も良い上に声まで良いとは。私がマジマジと顔を見つめていると、少年は驚いたような反応で目を見開く。
「あっ、あなたは……どういう事だ、人間にしか見えない、いや人間としての特徴を持っている?」
私に聞かせるためでは無い自分自身への問いかけをしている様な、そんな声をあげる少年。私はどういう事か少し不安になる。その不安を感じ取ったのか少年は「あっすみません」と小さく頭を下げた。何だったんだろう。
「それより、傷は大丈夫?」
今の疑問は何だったのか聞きたい事はあるけど、それよりも痛々しいキズを負った少年の体調の方が今は優先だ。回復魔法は使えないから、何かできるわけではないけど。
「大丈夫、無理してでも移動しなければいけないので」
少年はふらつきながら立ち上がり、歩き始める。
「そんな状態になるなんて……一体何が? この森は危険なモンスターはいないはず」
私の問いかけが聞こえない様に、少年は歩き続ける。意図的に無視をしている。何か、厄介な出来事に巻き込まれているから関わってくれるな、とでも言いたげな背中だった。私は少し考える。自分だって同じ状況だし、同じなら助け合えるかもしれない。私は少年の隣に駆け寄って、付き添う様に歩き始める。
「何を」
少し怯えたように少年が私に言う。ひどい目にあったのか、人間不信になっている様な感じの声。私は出来る限り優しい声をかける。
「放ってはおけない、王都には訳あって行けないけど、王都に行く訳では無さそうだから、付き合うよ」
少年が歩いて行こうとしている方向は、王都とは逆の方向だった。
「それに私は行く当てがなくて、どうしようか悩んでいたの、付き添わせてくれないかな」
少年は迷ったように目を泳がせる。それから口を開いた。
「僕だって行く当てはありませんよ」
少なくとも拒絶の言葉ではなかった。私は少年に笑いかける。少年は少し恥ずかしそうに顔を背けた。
「私はサミュトエル・レシター、サミュでいいよ、あなたの名前は?」
「アルネ・サモネクア、アルネで……いいです」
アルネは、歩いている方向に視線を向けてそう言った。出会って間もないから当然だけど、やっぱり壁がある対応だった。こういう時は本音で、自分の話をすれば心を開きやすくなるのではないか。私はそう考えて今の気持ちを正直に口に出した。
少年はその口から、とても苦しそうながらも心地の良い低音の声を響かせる。顔も良い上に声まで良いとは。私がマジマジと顔を見つめていると、少年は驚いたような反応で目を見開く。
「あっ、あなたは……どういう事だ、人間にしか見えない、いや人間としての特徴を持っている?」
私に聞かせるためでは無い自分自身への問いかけをしている様な、そんな声をあげる少年。私はどういう事か少し不安になる。その不安を感じ取ったのか少年は「あっすみません」と小さく頭を下げた。何だったんだろう。
「それより、傷は大丈夫?」
今の疑問は何だったのか聞きたい事はあるけど、それよりも痛々しいキズを負った少年の体調の方が今は優先だ。回復魔法は使えないから、何かできるわけではないけど。
「大丈夫、無理してでも移動しなければいけないので」
少年はふらつきながら立ち上がり、歩き始める。
「そんな状態になるなんて……一体何が? この森は危険なモンスターはいないはず」
私の問いかけが聞こえない様に、少年は歩き続ける。意図的に無視をしている。何か、厄介な出来事に巻き込まれているから関わってくれるな、とでも言いたげな背中だった。私は少し考える。自分だって同じ状況だし、同じなら助け合えるかもしれない。私は少年の隣に駆け寄って、付き添う様に歩き始める。
「何を」
少し怯えたように少年が私に言う。ひどい目にあったのか、人間不信になっている様な感じの声。私は出来る限り優しい声をかける。
「放ってはおけない、王都には訳あって行けないけど、王都に行く訳では無さそうだから、付き合うよ」
少年が歩いて行こうとしている方向は、王都とは逆の方向だった。
「それに私は行く当てがなくて、どうしようか悩んでいたの、付き添わせてくれないかな」
少年は迷ったように目を泳がせる。それから口を開いた。
「僕だって行く当てはありませんよ」
少なくとも拒絶の言葉ではなかった。私は少年に笑いかける。少年は少し恥ずかしそうに顔を背けた。
「私はサミュトエル・レシター、サミュでいいよ、あなたの名前は?」
「アルネ・サモネクア、アルネで……いいです」
アルネは、歩いている方向に視線を向けてそう言った。出会って間もないから当然だけど、やっぱり壁がある対応だった。こういう時は本音で、自分の話をすれば心を開きやすくなるのではないか。私はそう考えて今の気持ちを正直に口に出した。
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