上 下
26 / 28
盤石な領地を作る!

私の勝ちよ

しおりを挟む
「俺は……私はトーマスです、私は今日の朝までスラム街で生活していました、ですが今日ヴィオラ様の騎士になりました、私は正しいと思った行為を行い、それをヴィオラ様が認めてくださったのです」
 そこまで言ってトーマスが言葉を切る。そして一度息を吸い、吐き出した。時折見せる強い光がこもった瞳をしている。
「皆さん、ヴィオラ様を信じてください! この方はこの国を変える! ヴィオラ様は命をかけるに値するお方だ! 私が彼女を命に代えても守り抜き、それを証明する!」
 あっ、心に刺さる物が。痛いほうの奴。贅沢三昧したいがために、領地を繁栄させて盤石なものにする。独立出来たら更なる富と権力で好き放題できる。そう考えていると、口が裂けても言えない。そんな事を言ってしまえば処刑を言い渡す相手が、オースティからトーマスに変わってしまう。
 その時、放送室の扉に衝撃が加わった。衛兵がこの部屋の前まで来ているらしい。わめき声も、だんだん増えてきている。もう来たか。猶予はもうない。また扉に衝撃。魔法を使わないのはたとえ蛮行を止めるためでも、破壊をすれば父上が怒るからだ。あの豚に助けられる形になったのは少し癪だが、一瞬でも時間が得られるのはありがたい。
「私は、ヴィオラ・グリムは、ここに宣言します! 正しく努力すれば正しく評価される領地を、上級階級に上がれる領地を作ると宣言します!」
 そこまで言い切ったタイミングで、扉が衝撃と共に開かれる。
「お嬢様! 何をされておられるのです!」
 そう怒号を上げたのは、騎士隊長。しかし、もう私は目的を遂げた後だ。後は必死な感じを演出するため、それから私自身を被害者的な立ち位置に見せるため、カメラの前で少し抵抗するだけだ。
「私は! 領民をないがしろにするやり方に疑問を感じたまで! だからこうして……」
 喋っている最中に、こちらの部屋に入ってきた騎士隊長が、私の腕をつかむ。いいタイミングで掴んでくれた。いい仕事をしてくれる。くははっ。
「キャッ」
 可能な限り大げさに倒れ込む。こんな可愛い悲鳴を初めて出したかもしれない。
「ヴィオラ様!」
 想像通りトーマスが声をあげて、騎士団長に向かっていく。正直子供の突進で、騎士団長をどうこうできるわけがない。トーマスは軽々と弾かれる。私は演出の為に、少し強めに吹き飛ばされた感じに見えるよう、トーマスを風の魔法でカメラに映る範囲の壁に叩きつける。
「トーマス!」
 私は金切り声をあげて、腕を振り払うと、トーマスに駆け寄った。それから顔を向けると、騎士隊長は少し驚いた顔をしていた。彼なら気づくだろう。トーマスが吹き飛ぶほどの力を込めていないだろうし、方向もおかしい。掴んでいた腕を振り払われたことも。だがもう遅い。くははっ。私の勝ちだ。
「私は、おかしい事をおかしいと言っているだけ! そんな私を暴力で抑えつけるのですね! でも私は負けない!」
 大きく呼吸をする。これまでで一番の力のこもった言葉にするために。
「私は誰でも頑張れば上級階級に上がれる領地を作るわ! 馬鹿げた貴族の壁をぶっ壊す! 私は絶対に!」
 私の勝ちよ。愚物ども。くははっ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

私は何もしていない!〜勝手に悪者扱いしないでください〜

四季
恋愛
「この方が私のことをいつも虐めてくるのです!」 晩餐会の最中、アリア・フルーレはリリーナから突然そんなことを言われる。 だがそれは、アリアの婚約者である王子を奪うための作戦であった。 結果的に婚約破棄されることとなってしまったアリア。しかし、王子とリリーナがこっそり関係を持っていることを知っていたので、婚約破棄自体にはそれほど驚かなかった……。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...