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その頃、彼らは02

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「マージル殿下」
「ッ! なんだ?」
 俺は今何をしていた。臣下の声はほとんど聞こえていなかった。合わせるように言葉を取り繕い、俺はその場を離れる。最近、無意識になってしまう事が多くなってきた。何も考えられない状態。そんな状態がふいに訪れ、俺は支配される。お父様を毒殺した時も、そんな状態になっていた。あれは俺の意思ではなかった。
「はぁ」
 ため息が漏れる。実際はなんとなく想像はついている。エリィがおそらく元凶だ。俺はなぜかエリィの言葉に逆らえない時がある。そういう時は決まって、エリィの体が仄かに光っていた。あれはきっと何かの魔法だ。俺は操られている。
「思えばあの時も」
 まだ、魔法学校に通っていた時、エリィと出会い、なぜか仲良くなっていた。友情や愛情という物は一朝一夕で出来上がる物ではない。そうではないはずだが、俺はあの時、出会って間もないエリィを深く愛していた。そして、ナナからのイジメの話を聞いて。
「……ナナ」
 俺はナナの事を思い出す。あまりお人好しという感じではなかったが、人をイジメるような人柄でもなかった。良い所もあったし、ダメな所もあった。普通の娘。
「ナナ」
 なんで俺はエリィを選んでしまったのか。
「あなたが、私に気があったのよ」
 突然、声が聞こえて、俺はハッとする。いつの間にかエリィが目の前に立っていた。場所もエリィの部屋だ。
「なっ」
「私はあの時、あなたの心をくすぐっただけ、私に気があったから、愛が芽生えたの」
「何で考えた事を!」
「愚かな人……今全部、思った事を口に出していたよ……まぁ私がそうしたんだけど」
 恐ろしいほど、悪意に満ちた笑顔をエリィは向けてくる。俺は腰が抜けていまい、その場に座り込んだ。
「すまない! 違うんだ」
「いいの、いいのよ……私は怒っていない」
 腰を下ろし目線を合わせて微笑んだエリィが、優しく俺の頬に手を当てる。
「私は人形を愛する趣味なんてないもの」
「っ!」
 俺は人形。この女にとって、権力をほしいままにするための道具。俺の体に悪寒が駆け抜ける。体の震えが止まらない。
「怖いのぉ? じゃあ、その恐怖、消してあげようか」
「い、いやだ、もうやめてくれ」
 自然と俺の口から懇願の声が漏れ出てくる。
「だぁめ、まだあなたには壊れてもらったら困るの」
 エリィの体が仄かに光る。俺の中で恐怖が消えていく。人としての尊厳も一緒に。ナナ。俺は愚かだったよ。君を選ぶべきだった。君に会いたい。
「おやすみ、マージル様」
 最後に見えたのはナナではなく、悪意に満ちたエリィの笑顔だった。
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