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 食事を終えて、私はやっと落ち着いて図鑑を開いていた。やっと始まったけど終わりが見えない。花瓶に活けられた花を前にして、ページを開いては似てる花を見つけて、見比べる。そうやって、ページを進んでいく。
「休憩も大事ですよ?」
 ファーリスの優しさのこもった声が聞こえてくる。
「はい、大丈夫ですよ」
 図鑑のページから目を離さず、私は声だけで返した。早く出来るようになりたい。そう言う気持ちがあって、課題に取り組んでいる。足手まといになりたくないのだ。
 するとふいに、肩に温かみを感じて、ビクリと驚いて、私は振り返った。そこにはファーリスが立っていて、私の肩に手を添えていた。
「肩に力が入っていますよ、マッサージしましょう」
 そう言って、有無を言わさず、ファーリスは肩のマッサージを始めた。どうも肩に力が入っていたようだ。初めて私はそれを認識する。
「頑張るのもいいですが、もっと力を抜いて」
「……ありがとうございます」
 優しく揉まれる肩がとても心地いい。だいぶ肩に力が入っていた様だった。これはもしかしたら、ずっとそうだったのかもしれない。図鑑を開く前からずっと。
「ありがとうございます、もっと役に立ちたくて、足手まといになりたくなくて」
「……足手まといなんて全然、役にも立っています、香り袋の件、僕じゃ思いつきませんでしたよ」
 ファーリスの心遣いがとても温かかった。嬉しさが込み上げてくる。思えば、私はあまりいい令嬢と言えなかった。裕福な家庭で何不自由なく育った。ほしい物は何でも手に入った。たぶん、酷いというほどではないけど、あまり好まれてもいなかったのではないか。
「……こんなに頑張るなら、申し訳ないから、ヒントをあげましょう」
 私はファーリスを見る。何が申し訳ないのかわからないけど、ヒントは大変助かる。
「ありがとうございます!」
 私がお礼を言うとファーリスがなんだか一度苦笑して、ヒントを告げてくれた。
「春の草花です、それからこの図鑑は季節でまとめられていますので、それでだいたい、どこからどこまで調べればいいかわかります」
「わかりました!」
 私が立ち上がって、ファーリスに体を向ける。そのまま頭を下げ「ありがとうございます」と伝えた。なぜだかファーリスは顔を赤らめている。
「い、急がなくていいですから、ゆっくり」
 微妙な動揺に私は首を傾げつつさっそく、図鑑を確認する。季節ごとになっているなら、調べる量は四分の一になる。大幅な時間短縮だ。
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