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 夜になって、閉店作業が終わると私はさっそく、図鑑を開いて、今日出された課題の花を探した。それがとても大変である。とんでもなく分厚い図鑑が、本棚一杯に並んでいて、ここからあの花を見つけ出さないといけない。イラスト付きで花の特徴もしっかり書かれているので、見れば気付くと思うけど。問題はそれだけじゃなかった。花言葉は別の書籍を探さないといけない。元々花言葉は吟遊詩人がつけたのが定着したらしい。だからというべきか、学術的な図鑑には花言葉は載っていない。花言葉の詩集から探し出さないといけないのだ。しかもこちらはイラストが無いから、花の名前の文字を探す作業。
「はぁー」
 私は思わずため息をついた。まずは図鑑で花の名前を調べるところから。それが見つかったら、詩集から、その花の名前で花言葉を探す作業。途方もない。
「最初はそうなりますよね」
 ファーリスが夕食を作りながらそう言った。とてもいい匂いが部屋中に充満している。集中力が持っていかれそう。
「ファーリスさんは全部覚えているんですか?」
「さすがにそれは」
 ファーリスは頭を横に振って、続ける。
「どこにどの花の事が書かれているかぐらいを、なんとなくしか把握していませんよ」
 余裕な感じでファーリスは言った。それもすごい事だと思う。ファーリスが花について調べる時、図鑑を何冊も開いている所を見た事がない。本当にだいたい把握しているという事だ。
「それより、もうすぐご飯が出来ますよぉ」
 ファーリスがクスクスと笑いながら、軽い風の魔法で私に料理の匂いを当てて邪魔をしてくる。お腹の虫が空腹を訴えた。
「もぉ、邪魔しないでください!」
「はは、ご飯作らなくてもいいのですか?」
 意地悪な笑みでファーリスがそう問いかけてくる。
「それは……ダメです」
 怒るに怒れず、私は観念したように唸った。ファーリスは私の姿を見て「食いしん坊ですもんね」と笑う。悔しいけど、ファーリスの作る料理は美味しい。私は今までこれほど食に対して執着はなかったけど、それを変えてしまうほど、ファーリスは料理が上手いのだ。
「いけない、いけない」
 私は誘惑を振り払うため、頭を横に振ると、図鑑に手をかけようする。少しでも図鑑を開いて、調べを進めていかないといけない。途方もなく時間がかかってしまうから。
「ほらほら」
 相変わらず風魔法で私に料理の匂いを流してくる。とてもいい匂いだ。ついついその匂いをずっと嗅いでいたくなる。
「むぅ!」
 私は抗議の声をあげた。ファーリスは嬉しそうに微笑んだ。
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