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「今、どうせ暇なんだからいいじゃないとか思いました?」
 ファーリスが鋭く指摘する。私は目を泳がせてしまって、そう思った事がバレてしまった。ファーリスは私の両頬をつねって引っ張る。
「ごめんなひゃーいー」
 少しの間、そうやって謝ってやっと解放される。私は両頬を擦って、痛みを和らげようとした。
「まぁこれぐらいで許しましょう」
「自分で、流行らないとか言ってたくせに」
 私は苦し紛れに反撃の言葉を口にすると、ファーリスが大げさなしぐさで、つねる様な動作をして言った。
「まだ足りませんかねぇ」
「いえ! 充分反省しました!」
 少しふざけるように私は背筋をピンと伸ばして、敬礼をして見せる。満足げに頷いたファーリスはつねるような動作をやめた。私はなんだかおかしくなって、吹き出してしまう。それを見たファーリスも同じように笑った。なんて幸せな時間だろうか。私は心がとても温かくなるのを感じた。
 ひとしきり笑うとファーリスが手を一度叩き、それから話を始める。
「ところで、花の香り袋の件を覚えていますか?」
「はい! 覚えています、私が仕事に慣れるまでは、やめておくって話になった」
「はい……ナナさんの仕事ぶりに余裕が出てきたので、そろそろ手をつけようかと思いまして」
 余裕が出てきたけど、結局、課題を与えられて、その余裕は消えてしまう気がするけど。意外とこのお方は人使いが荒いかもしれない。私が心の中で少し毒づいていると、ファーリスは気づかない様子で、話を続ける。
「とりあえず、どういうコンセプトにするか、そこを決めようかと思いますが」
「そうですね! 方向性が決まらない事にはなんとも」
 私の言葉にファーリスが頷く。コンセプト。どういう物が良いだろうか。私は腕組みをして考え始める。
「はは、それもなかなか難しいですよね……ナナさんはどんな香りが好きですか?」
「香り……ですか」
 どんな香りが好きか、そんな事考えた事がない。香りに触れる機会なんて、食事の時くらいだった気がする。ご飯の匂いなんで言ったら笑われてしまうし。そう考えているうちに、食べ物関係で私はふと思いつく事があった。果物の香り。甘い匂いとか、酸味のある匂いとか。花でもできそうな物は何だろう。
「甘い匂いとか……ですかね」
「あぁ……もしかして食べ物から連想しました? 食いしん坊ですね」
 少し意地悪な笑みを零すファーリス。私は「もうっ」とファーリスの背中をバチンと平手打ちする。「そうですよ! 食べ物から連想しました!」
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