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「スゴイですね」
「スゴクはないですよ……そういう事で、少し特殊な花屋というのは理解をしていてほしいという事です」
 とても花に詳しくなければ、たぶん気付かない部分だろう。私は言われるまで、この花たちが、咲く季節が違うと気付かなかった。お客さんはほとんどそうなんじゃないだろうか。
「ところで」
 話を変えるようにファーリスがそう言う。
「なんでしょう」
「花の香は好きですか?」
「はい、好きです、最近まで気にした事がなかったけど、好きになりました」
 私の言葉に少し嬉しそうにしたファーリスが「よかった」と呟く。
「今ですね、花の香り袋を作ろうと思っていまして」
「香り袋?」
「はい、簡単に言うと、袋に花弁を入れて、いつでも香りを楽しめる物を作りたいのです」
「あぁ! 素敵ですね! いつでも香りが楽しめるなんて」
「そうなんです! 良いと思うんです」
 嬉しくなって、私とファーリスの顔が近づいてしまう。気付いた二人は赤くなって、すぐに離れた。
「女性が主に欲しがると思いまして、出来ればナナさんに手伝ってもらいたいんです」
「はい! ぜひやってみたいです!」
 そんなに素敵な物を、作る手伝いをさせてもらえるなんて、とても嬉しい。
「よかった! 僕みたいな男の感性では不安だったんですよ」
「そんな事ないですよ、ファーリスさん一人でも、きっと素敵な香り袋を作れたはずですよ」
「いや、そんな事は」
 謙遜するファーリスの手を私はしっかりとつかんで見つめながら言う。
「素敵ですよ、とっても!」
 ファーリスはとても素敵な男性だ。優しくて、花が好きな所もなんだかとっても。
「ナナさん」
 困った様に声をあげるファーリス。私も近づ行き過ぎていた事に気付いて、また距離を取る。顔が熱い。ファーリスもまた顔を赤くしている様だった。私達はしばらく、ドギマギとしてしまう。
「……とりあえず、落ち着くまでは、香り袋の研究はやめておきましょう」
 少し普通に戻ったファーリスの言葉に、私は「お気遣いありがとうございます」と返す。気持ちとしてはすぐにでも、香り袋を作ってみたいと思うけど、その楽しみは取っておこうと思う。



 数日がたって、私は新しい生活に慣れてきていた。今日も朝日が上がるくらいに起きて、ファーリスと一緒に花に水をやり、朝ごはんを食べる。少し違ったのはポストに入っていた新聞を取り出した時、偶然目に入った内容だった。すぐに新聞を開く。
「! ソール国王、不可解な死」
 私が生まれ育ったあの国の王が、不可解に死んだらしい。読み進めると、マージル王子が即位と書いてある。そして、結婚とも。その相手はエリィ。私の頭に浮かぶ可能性。エリィが王を殺したのでは。私は身震いする。あの悪女ならあり得る。
 それにしても、マージルは馬鹿な事をしたと思う。あの悪女を選ぶなんて。これから地獄の日々があの人に待っているのではないかと思うと、少し溜飲が下がった気がした。
「ざまぁみろですね」
 汚い言葉使いを誰にも聞かれていないか、周りを確認する。誰もいない。私は新聞を綺麗に折りたたむと、家に急いで戻った。
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