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 ファーリスが差し出したのは、絹の白い簡素な服と、作業着のような服。でもファーリスが着ている作業着とは少し構造が違う。
「オーバーオールと言います」
「オーバーオール……ですか」
 私はオーバーオールを受け取ると、ファーリスに連れられ、居住スペースの奥まった場所に移動する。ファーリスがその場を離れていくと、私はオーバーオールに着替えてみた。足は少し長くて、折りたたむ。それ以外は特にブカブカという訳でもなかった。ファーリスはどちらかと言うと、線が細い。たぶんそのおかげだろう。なんだかうれしくなる。贈り物と言えるかわからないけど。
「着替え終わりました」
 私が居住スペースの中心の方に戻っていくと、ファーリスがこちらを見て、少し驚く。
「可愛い……お似合いです、作業着なので、淑女に使う言葉として正しいかわかりませんが」
「いえ」
 体が軽くなった様に感じた。嬉しさが止まらない。
「出来れば、このオーバーオール、頂けませんか? とても気に入りました」
 初めての贈り物。可愛い……と言ってもらえた物。これを着ていたい。少し驚いたようにするとファーリスが「そんなものでよければ」と微笑む。
「ありがとうございます」



 とりあえずという事で私はお金を渡され、下着を買いに行く。さすがに裸にオーバーオールでは落ち着かない。ついでに足に合う靴を買い、ファーリスの家に戻った。
「ありがとうございました!」
 私はファーリスに精いっぱいのお辞儀をする。
「そんな! いいですよ!」
 ファーリスは綺麗な所作で私に椅子を薦める。私が座ると、ファーリスも向かい合う様に座った。
「とりあえず……捕まっていたという事ですけど」
 その言葉で一気に重苦しい空気になる。捕まっていたなんて、異常な状況だ。いやでも重苦しい空気になる。
「憲兵への連絡すれば……そのまま元の場所へ戻れるはずですので、安心してください」
「まって! ……ください」
 思いのほか大きい声になってしまい、尻すぼみに声が小さくなる。あの場所へは帰れない。帰りたくもない。ここに居たい。どうか。
「ここで……働かせてもらえませんか?」
「え?」
「元の場所はひどい所で……帰りたくありません、ここに居たい、憲兵には連絡しないでほしいです」
 私の言葉にファーリスは驚いた表情になる。そして、そのまま思案する表情に。何とかここに居たい。どうかお願いだから。ファーリスと離れたくない。そう思う。
「そう……ですか」
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