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 居住スペースはとても整理されていて綺麗だった。だけどそれよりも私は別の部分に目がいってしまって、部屋の感想があまり出てこなかった。
「行きますか?」
 ファーリスは嬉しそうにそう聞いてくる。私の視線に気づいたんだろう。部屋の窓から見えている、とても広い花壇。私はそれが気になっていたのだ。
「ぜひ」
 私はファーリスの誘いに乗って、花壇に案内してもらう。
「スゴイ、キレイそれに……良い香り」
「売るために栽培してますが、趣味も入っています」
 満足げにファーリスが言う。本当に素晴らしい。花とはこんなに良い物なんだ。知らなかった。
「あそこで……ナナさんと出会った場所で、花を分けてもらい、ここで栽培しています……他の所からももらってきますが、あそこは特に気に入ってて」
「あぁ、だから、あそこに」
 あんなところで、何をしていたんだろうとは思っていたけど、そういう事だったらしい。そういえばあの花畑で見かけた花がある。私は最初に見た花があったので見つめる。紫色の細かい花が沢山ついた物。私はそれに手を伸ばした。なんだか可愛い花。私は自然に笑っていた。
「恋の……芽生え」
 ファーリスが呟くように言った。何だろう。私はファーリスに視線を向ける。少しボーっとしているような。
「あっ、すみません! 花言葉です、その花の」
「……花言葉?」
「花にはそれぞれ言葉があるんです」
 そう言いながらファーリスがこちらに歩いてきて、私が見ていた花に優しく触れる。
「この花はライラック、紫のライラックの花言葉は……恋の芽生え」
「恋の……芽生え」
 心臓が跳ねる。ただ教えてくれただけの言葉。なのにとても、甘美な響きを感じる。私は耐えられなくなって、別の花を指差す。
「これは?」
 指したのは小さめの青い花。
「それはネモフィラ、どこでも成功、可憐、あなたを許す、そういう感じです」
 私は次々と花を指差して聞いてみる。それに淀みなく、ファーリスは答えていった。
「すごい、本当に好きなんですね」
「はい、花はいいですよ、とても」
 花を見つめるファーリスの横顔を私は伺い見る。とても嬉しそうな顔。いつまでも見てられそうだ。
「あっ、すみません、そういえば服を」
 思い出したようにファーリスが言った。私も自分の格好を思い出す。慌てたようにファーリスが居住スペースに入って行くと、バタバタと部屋の中走り回って、一着の服を持ってきた。
「服を買いに行くにしても、それじゃあ良くないでしょうから、とりあえずこれを着てもらって」
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