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第三章

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「影の魔物が現れましたぞ」
 ドレグの潜めた声で目が覚める。メイドを長くやっていると、いつでもどこでも、すぐ寝て、すぐ起きれる。おかげで、すぐに状況が飲み込めた。
「まだバレていませんか?」
「大丈夫ですぞ……ただ数が多い、備えてくだされ」
「はい」
 来てしまったと、私は思う。夜になれば、影の魔物の時間。こういう事態は起こって当たり前。クロエ様は大丈夫だろうか。私は一瞬、そんな事を考えて、頭を振る。今は自分たちの安全を考えないといけない。
 私は馬車の中を見る。エネリーは当然、もういない。この状況で寝続けているのは、リコ様だけだ。
「起きてください、リコ様」
 声を潜めて、リコ様に声をかける。わかっていた事だけど、一向に目を覚まさない。体を強めに揺れ動かしても、結果は同じ。
「んー、むにゃ、ニャー」
 寝ぼけているのか、変な声を出している。
「このねぼすけ! 起きなさい!」
 つい大きめの声を出してしまい、ハッと声を抑える。
「起きなさい」
「んー、もうちょっとだけぇ」
 半分、起きかけているのか、一応、意味の分かる内容だった。
「影の魔物が出ました、起きてください」
「えー? かぎぇのまもぉの?」
「そうです、お願いだから、シャキッとして」
 ほとんど、懇願する様に、私はリコ様に声をかける。この状況で影の魔物が襲ってきて、何とかできるのは、この人しかいない。
「むー、ぬむい、めんどい」
 のそりとリコ様が体を起こして、自分の武器に手を伸ばす。こんな状態で戦えるのか。
「はぁーう」
 変なあくびの後、リコ様は武器を抜いた。完全に寝ぼけてる。抜き続けていては、ダメなはずの武器を、抜いたままにするなんて。
「ちょっ、ダメっ、しまって」
 私は焦って、リコ様を掴んで、武器をしまわせようとする。しかし。
「いいのぉ」
 リコ様は、鞘をカランと落とす。武器からは、禍々しい魔力の様な物が、あふれ出ていた。
「ちょっ、リコ様!」
「だいじゅーぶ、へへ、びょーそーりゅー、おーぎぃー、はちのつめー」
 それだけ言うと、リコ様は馬車を飛び降りる。
「うにゃーお」
 変な声と共にリコ様は駆けだして、馬車周辺にいる、影の魔物に襲いかかっていく。とんでもないスピードで。リコ様が、いつも使っている技とは、かけ離れた、ただ武器を振り回してるだけの行動。それでも影の魔物は瞬殺だが。
「なんですかな! あれは!」
 ドレグが声をあげるが、私も答えられない。
「リコ様?」
「リコ様っすか」
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