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第二章

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 私は集中をするために、呼吸を整える。感覚で理解してて、言葉では言い表せれないけど、呼吸を整える事で、リズムというのか、タイミングというのか、それが良い時が判る。
「猫爪流居合術 壱の爪」
 横薙ぎの技。基本の技だ。すぐさま私は姿勢を整え、次の技を使う。
「弐の爪」
 上から下に斬る技。相手に対し、深めの右半身になり、刀の柄頭を上向きにして、抜くため、縦方向の攻撃を避けながら、攻撃できる。私はすぐさま、体勢を整え、次の技へ。
「参の爪」
 下から上に斬る技。体の姿勢を低くしたところから、斬る技のため、横からの攻撃を避けながら、攻撃ができる。
「ふぅー」
 私は立ち姿勢に戻り、大きく息を吐いて、呼吸を整える。
「すごい!」
 エネリーが感激の声をあげた。私の集中が途切れる。終わってないんだけどな。
「そんな事ないよ」
「すごいっすよ! その剣がどれくらい重いのか、わからないっすけど、そんなに早く振れるなんて」
「速さは……この剣の力もあるから」
 妖刀、木天蓼。抜く物に力を与える。けど、抜いたまま持っていると、その内、狂気に飲み込まれ、暴れ出す。猫爪流居合術は、そのデメリットを受けないために、開発された流派、らしい。とにかく、その力で、刀を振る速さがあがっている。
「それに、そんな速さで、剣を鞘に納められるのが、凄いです」
「あぁ、練習あるのみだよ」
「俺もそうやって、剣を納めればいいっすかね、剣を鞘に戻すの面倒なんっす」
 ニールが自分の剣を抜いて、そう言う。
「いや、ダメだよ」
 ニールが不思議そうな表情で「なんでっすか」と聞いてくる。刀を知らないから、疑問に思うのだろう。
「これはね、刀って言うんだけど、片刃……ていうのかな、その剣と違って、片方しか刃がついてないの」
 刀を鞘に納める時は、刃がついていない方を、鞘を持っている方の手に当てて、滑らせて、剣先を鞘に入れ、納める。その旨をニールに説明して、私は続ける。
「ニールの剣は、両方に刃がついてるから、同じ事したら、手が斬れるよ」
「あぁ、なるほどっす」
 納得した表情で、ニールがそう言う。
「でも不思議な剣ですね、抜いた人を狂わせるんですよね」
 エネリーが興味津々で、木天蓼を見つめる。
「本当に狂うっすか?」
「いや……試した事ないけど、というか、それはイグオール城の人が昔、試したんでしょ?」
 クロエがそういう事を言っていた。いつ頃の話か知らないけど。
「試したんですか? その剣に関する噂話は知ってますが」
 エネリーがそう言いながら、ニールに同意を求めるように、視線を送る。それを受けてニールが頷きながら言った。
「そうっす、武器庫にある奇妙な剣を抜くと、気が狂うってやつっすね」
「そうそう、城ではそういう噂というか、都市伝説というか、あったので」
 都市伝説化していたらしい。城の者たちに、変な伝わり方をしたんだろう。それか、昔のことで、もう、みんな忘れているか。
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