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第二章

03

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「ドレグさんがすみません」
 私は、声がした馬車の運転席に当たる場所を覗き込む。どうやら、馬車を操っている人の声みたいだ。
「リコ様が悪いのでいいですよ」
 シルクが言った。
「馬車止めてすみません」
 私は二人に謝る。
「私たちは、リコ様に、希望を見せてもらっている訳ですし」
 私は馬車の運転席に移動して、声の主の隣に座る。ちょっと気が弱そうな女性兵士が、申し訳なさそうに、座っている位置をずらす。
「そんな希望なんて大げさな」
 謙遜しつつ、ちょっと気持ちよくなりながら、私はそう言う。
「本当に希望の光ですよ、ドレグとニールの活き活きした顔、久しぶりに見ました、他の兵士もそうです」
「いつも、あんな感じじゃないんだ」
「前に戻ったというか、最近はふさぎ込んでました」
 やっぱり、この状況で兵士は、かなり追い込まれていたんだろう。突然現れた私にさえ、希望を持つくらいに。
「もう、活き活きとした顔以外、見ないためにも、頑張らないと」
 誰かに言ったというより、自分に言い聞かせるように、私はその言葉を発した。
「ところで名前は?」
 私の問いかけに、女性兵士はハッ、とした顔をして「エネリ―です」とすぐさま答える。
「すみません、自己紹介を、全くしていませんでしたね」
「みんな、ピリピリしてるんじゃないかって、思ってたら、意外と大丈夫で……もっと早く聞けばよかったよ」
 出発が、せわしなくて、そんな時間もなかったけど。
「女性の兵士がいるのは、知っていましたが、顔を合わせる機会がありませんでしたね」
 シルクがエネリーの隣、私とシルクでエネリーを挟む形で、運転席に座りながら言った。
「メイドと兵士じゃ、接点ないよね」
 私の言葉に、シルクが頷いて、口を開く。
「そうですね、せっかくの機会ですし、今後とも、城勤めの女性として、親睦を深めたいですね」
 シルクが微笑みながらそう言った。なんか、私と初めて会った時と、態度が全然違うのだけど。友好的というか。
「光栄です! ぜひっ……私はシルクさんに、ずっと声をかけたかったんですが、クロエ様のおそばにいるので、私の様な者が声をかけるのは、いけない気がして」
 少し遠慮がちなしゃべり方で、エネリーがシルクに応える。
「私達、友達だね!」
 私は、達の部分を強調して言う。シルクが鼻で笑った気がしたが、気にしない。エネリーが困った様子で、私に微笑み返してくれる。あっ、涙が出そうだ。私は涙を堪えて、提案する。
「早速、今日の夜に三人で一緒に寝よう!」
 私の言葉に反応したように、馬車の前方に移動してきたドレグが言う。
「それはいけませんな」
「えー、なんで」
 私が抗議の声をあげる。
「エネリーは見張りという、兵士としての役目があります」
「むむむ」
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