3 / 3
残念だったな! 平日だぜ! クリスマスとか浮かれてないで仕事しろよ! そして日を越す残業になってしまえ!
しおりを挟む
「魔王様の世界から見たら別の世界……異世界でも別世界、別次元……捉え方はなんでもいいよ」
イヴリンが薄く微笑んだ後、こちらに背中を向けて窓の方に歩いて行く。
「重要なのはその強い負のエネルギー」
別世界にいたイヴリンが感じ取れるほどの、負のエネルギーだったらしい。リア充爆発しろって念じただけだぞ。その気持ちが強すぎたという事だろうか。何というか虚しさを感じるのは、僕だけだろうか。
「魔王様は世界が憎い?」
「憎しみ?」
世界が憎いなんて、そんな大それたこと思った事がない。ただ単にリア充どもを見るのが辛くて、だからリア充爆発しろなんて言ってただけだ。僕は戸惑ってしまい、口ごもる。そのまま伝えたら、もしかして失望されて殺されてしまうのでは。この子にとって僕は魔王様らしいから。
「ふふ、もっとシンプルに言った方が良いかな」
イヴリンがこちらに振り向く。顔は光悦を浮かべていた。いや、目がすわっているという方が正しいか。その両方を浮かべているという方が正しいか。
「一緒にリア充を爆発しよう! あいつらイチャイチャしやがって! 羨ましい……じゃなかったけしからん!」
「……はははっ、リア充爆発、それはいい事だ」
やっと気味の悪さや怖さが消えた。僕はついつい笑ってしまう。
「さぁ、この手を取って、魔王様」
手を差し出してくるイヴリン。顔には微笑みと期待が浮かんでいる。悪魔に魂を売る行為。そんな気がする。僕は考える前に体が動いていた。イヴリンの前まで進み出て、その手を掴む。
「ようこそ魔王様」
イヴリンが声をあげた瞬間、掴んだ手の方から黒いモヤモヤした物が服を包んでいく。完全に服が包まれると、それから黒いモヤは形を変えて服へと変わった。少し和風感のある黒装束でフードをかぶっている状態。魔王らしい衣装になった。
「いいね」
コスプレ感が半端ないけど、でもこれは気持ちが高まる。僕の中にくすぶっていた中二病が、抑え込んでいた中二病が発現してしまいそうだ。いや、これはもう抑える必要なんてない。
「ふはははは! 待っていろリア充ども! 絶望へと突き落としてくれるわ!」
「すばらしいよ! 魔王様! それで皆を鼓舞して!」
みんなという事は仲間がいるのか。まぁ魔王というくらいだから、モンスターの軍勢がいてもおかしくないか。イヴリンに手を引かれて、目の前に見えていたバルコニーへと出る。そこから見えたのは、敷地内に所狭しと並んでいるモンスター達だった。僕の姿が見えたからだろう。モンスター達から歓声があがる。
「目標は?」
「そうこなくっちゃ! 目標は王都の聖夜祝祭! 一年の感謝をささげる日なのにみんな恋人と無駄にえっちしてやがる! 羨ましい……じゃなかった、許すまじ!」
イヴリンが両手を握り締めてプルプルと小刻みに震える。
「確かに許すまじ! 一年の感謝をせずにそんな事をしやがって! 羨ましい……じゃなかったけしからん!」
「さぁ! みんなが待っている! 号令を!」
最高潮に盛り上がっているらしいイヴリン。でも腰を折るようで悪いけど、一つ言っておきたい事があった。
「その前に……殺しは一切認めない」
僕の言葉にイヴリンが呆気にとられたように、こちらを見つめる。さすがにそれを言ったら、期待外れだとか言って殺されてしまうかな。それでも、殺しはできない。
「あっ、当たり前だよ! 殺しなんてそんな怖い事する訳ないよ!」
イヴリンが殺しという言葉を言うのも嫌という感じで、顔を横に振る。あっそうなの。
「無茶苦茶にするだけ、部下たちだって殺しなんてそんな怖い事できるやつらじゃないよ」
思うほど恐ろしい組織ではないかもしれない。僕は安心すると、並んで待っているモンスターたちを見下ろす。
「今日は聖夜祝祭! 感謝をささげる日であって恋人と乳繰り合う日では断じてない!」
僕の声に合わせて同意する怒号が響いた。万を超えるモンスターたちの声が重なって地響きがするほどのうねりへと変化する。非モテ達の魂の叫びに他ならなかった。
「感謝を捧げないのであれば、奴らには救いは無い! そうだろう! 同志たちよ!」
さらなく声があがる。これぞ非モテの負のパワーだ。
「行くぞ! 聖夜祝祭を叩き潰せ! 行進せよ! リア充爆発しろ!」
「リア充爆発しろ!」
大砲でも打ち込んだのかと思うほどの、声の重なり。そして、モンスターたちが行進を始める。
「さすが魔王様! 私の目に狂いはなかった!」
興奮したイヴリンに僕は笑って見せた。そして、イヴリンに手を差し出す。
「ははっ……さぁ行くぞ!」
イヴリンが「行こう」と呟きながら僕の手を取った。
※
こうして二人は出会った。そして、この二人は惹かれ合ってしまう事になる。しかし、周りにはリア充爆発しろとか言っちゃう非モテモンスター達。恋人になろうものなら、いや、甘酸っぱい雰囲気を出しただけでも、万を超えるモンスター達の妬みや嫉みによって八つ裂きにされてしまうだろう。
これは許されざる恋。二人の恋路は厳しい茨のような道になるだろう。それでもモンスター達の目を欺き、物陰で愛を育む二人の物語は……また機会があったら語るとしよう。
イヴリンが薄く微笑んだ後、こちらに背中を向けて窓の方に歩いて行く。
「重要なのはその強い負のエネルギー」
別世界にいたイヴリンが感じ取れるほどの、負のエネルギーだったらしい。リア充爆発しろって念じただけだぞ。その気持ちが強すぎたという事だろうか。何というか虚しさを感じるのは、僕だけだろうか。
「魔王様は世界が憎い?」
「憎しみ?」
世界が憎いなんて、そんな大それたこと思った事がない。ただ単にリア充どもを見るのが辛くて、だからリア充爆発しろなんて言ってただけだ。僕は戸惑ってしまい、口ごもる。そのまま伝えたら、もしかして失望されて殺されてしまうのでは。この子にとって僕は魔王様らしいから。
「ふふ、もっとシンプルに言った方が良いかな」
イヴリンがこちらに振り向く。顔は光悦を浮かべていた。いや、目がすわっているという方が正しいか。その両方を浮かべているという方が正しいか。
「一緒にリア充を爆発しよう! あいつらイチャイチャしやがって! 羨ましい……じゃなかったけしからん!」
「……はははっ、リア充爆発、それはいい事だ」
やっと気味の悪さや怖さが消えた。僕はついつい笑ってしまう。
「さぁ、この手を取って、魔王様」
手を差し出してくるイヴリン。顔には微笑みと期待が浮かんでいる。悪魔に魂を売る行為。そんな気がする。僕は考える前に体が動いていた。イヴリンの前まで進み出て、その手を掴む。
「ようこそ魔王様」
イヴリンが声をあげた瞬間、掴んだ手の方から黒いモヤモヤした物が服を包んでいく。完全に服が包まれると、それから黒いモヤは形を変えて服へと変わった。少し和風感のある黒装束でフードをかぶっている状態。魔王らしい衣装になった。
「いいね」
コスプレ感が半端ないけど、でもこれは気持ちが高まる。僕の中にくすぶっていた中二病が、抑え込んでいた中二病が発現してしまいそうだ。いや、これはもう抑える必要なんてない。
「ふはははは! 待っていろリア充ども! 絶望へと突き落としてくれるわ!」
「すばらしいよ! 魔王様! それで皆を鼓舞して!」
みんなという事は仲間がいるのか。まぁ魔王というくらいだから、モンスターの軍勢がいてもおかしくないか。イヴリンに手を引かれて、目の前に見えていたバルコニーへと出る。そこから見えたのは、敷地内に所狭しと並んでいるモンスター達だった。僕の姿が見えたからだろう。モンスター達から歓声があがる。
「目標は?」
「そうこなくっちゃ! 目標は王都の聖夜祝祭! 一年の感謝をささげる日なのにみんな恋人と無駄にえっちしてやがる! 羨ましい……じゃなかった、許すまじ!」
イヴリンが両手を握り締めてプルプルと小刻みに震える。
「確かに許すまじ! 一年の感謝をせずにそんな事をしやがって! 羨ましい……じゃなかったけしからん!」
「さぁ! みんなが待っている! 号令を!」
最高潮に盛り上がっているらしいイヴリン。でも腰を折るようで悪いけど、一つ言っておきたい事があった。
「その前に……殺しは一切認めない」
僕の言葉にイヴリンが呆気にとられたように、こちらを見つめる。さすがにそれを言ったら、期待外れだとか言って殺されてしまうかな。それでも、殺しはできない。
「あっ、当たり前だよ! 殺しなんてそんな怖い事する訳ないよ!」
イヴリンが殺しという言葉を言うのも嫌という感じで、顔を横に振る。あっそうなの。
「無茶苦茶にするだけ、部下たちだって殺しなんてそんな怖い事できるやつらじゃないよ」
思うほど恐ろしい組織ではないかもしれない。僕は安心すると、並んで待っているモンスターたちを見下ろす。
「今日は聖夜祝祭! 感謝をささげる日であって恋人と乳繰り合う日では断じてない!」
僕の声に合わせて同意する怒号が響いた。万を超えるモンスターたちの声が重なって地響きがするほどのうねりへと変化する。非モテ達の魂の叫びに他ならなかった。
「感謝を捧げないのであれば、奴らには救いは無い! そうだろう! 同志たちよ!」
さらなく声があがる。これぞ非モテの負のパワーだ。
「行くぞ! 聖夜祝祭を叩き潰せ! 行進せよ! リア充爆発しろ!」
「リア充爆発しろ!」
大砲でも打ち込んだのかと思うほどの、声の重なり。そして、モンスターたちが行進を始める。
「さすが魔王様! 私の目に狂いはなかった!」
興奮したイヴリンに僕は笑って見せた。そして、イヴリンに手を差し出す。
「ははっ……さぁ行くぞ!」
イヴリンが「行こう」と呟きながら僕の手を取った。
※
こうして二人は出会った。そして、この二人は惹かれ合ってしまう事になる。しかし、周りにはリア充爆発しろとか言っちゃう非モテモンスター達。恋人になろうものなら、いや、甘酸っぱい雰囲気を出しただけでも、万を超えるモンスター達の妬みや嫉みによって八つ裂きにされてしまうだろう。
これは許されざる恋。二人の恋路は厳しい茨のような道になるだろう。それでもモンスター達の目を欺き、物陰で愛を育む二人の物語は……また機会があったら語るとしよう。
0
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった
ありあんと
ファンタジー
アラサー社会人、時田時夫は会社からアパートに帰る途中、女子高生が聖女として召喚されるのに巻き込まれて異世界に来てしまった。
そして、女神の更なるミスで、聖女の力は時夫の方に付与された。
そんな事とは知らずに時夫を不要なものと追い出す王室と神殿。
そんな時夫を匿ってくれたのは女神の依代となる美人女神官ルミィであった。
帰りたいと願う時夫に女神がチート能力を授けてくれるというので、色々有耶無耶になりつつ時夫は異世界に残留することに。
活躍したいけど、目立ち過ぎるのは危険だし、でもカリスマとして持て囃されたいし、のんびりと過ごしたいけど、ゆくゆくは日本に帰らないといけない。でも、この世界の人たちと別れたく無い。そんな時夫の冒険譚。
ハッピーエンドの予定。
なろう、カクヨムでも掲載

転生しても山あり谷あり!
tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」
兎にも角にも今世は
“おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!”
を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる