クリスマス中止のお知らせ・リア充爆発しろと念じていたら世界を滅亡させる魔王を探し求めていたモンスターたちに異世界へ召喚されてしまったんだが

高岩唯丑

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残念だったな! 平日だぜ! クリスマスとか浮かれてないで仕事しろよ! そして日を越す残業になってしまえ!

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「魔王様の世界から見たら別の世界……異世界でも別世界、別次元……捉え方はなんでもいいよ」
 イヴリンが薄く微笑んだ後、こちらに背中を向けて窓の方に歩いて行く。
「重要なのはその強い負のエネルギー」
 別世界にいたイヴリンが感じ取れるほどの、負のエネルギーだったらしい。リア充爆発しろって念じただけだぞ。その気持ちが強すぎたという事だろうか。何というか虚しさを感じるのは、僕だけだろうか。
「魔王様は世界が憎い?」
「憎しみ?」
 世界が憎いなんて、そんな大それたこと思った事がない。ただ単にリア充どもを見るのが辛くて、だからリア充爆発しろなんて言ってただけだ。僕は戸惑ってしまい、口ごもる。そのまま伝えたら、もしかして失望されて殺されてしまうのでは。この子にとって僕は魔王様らしいから。
「ふふ、もっとシンプルに言った方が良いかな」
 イヴリンがこちらに振り向く。顔は光悦を浮かべていた。いや、目がすわっているという方が正しいか。その両方を浮かべているという方が正しいか。
「一緒にリア充を爆発しよう! あいつらイチャイチャしやがって! 羨ましい……じゃなかったけしからん!」
「……はははっ、リア充爆発、それはいい事だ」
 やっと気味の悪さや怖さが消えた。僕はついつい笑ってしまう。
「さぁ、この手を取って、魔王様」
 手を差し出してくるイヴリン。顔には微笑みと期待が浮かんでいる。悪魔に魂を売る行為。そんな気がする。僕は考える前に体が動いていた。イヴリンの前まで進み出て、その手を掴む。
「ようこそ魔王様」
 イヴリンが声をあげた瞬間、掴んだ手の方から黒いモヤモヤした物が服を包んでいく。完全に服が包まれると、それから黒いモヤは形を変えて服へと変わった。少し和風感のある黒装束でフードをかぶっている状態。魔王らしい衣装になった。
「いいね」
 コスプレ感が半端ないけど、でもこれは気持ちが高まる。僕の中にくすぶっていた中二病が、抑え込んでいた中二病が発現してしまいそうだ。いや、これはもう抑える必要なんてない。
「ふはははは! 待っていろリア充ども! 絶望へと突き落としてくれるわ!」
「すばらしいよ! 魔王様! それで皆を鼓舞して!」
 みんなという事は仲間がいるのか。まぁ魔王というくらいだから、モンスターの軍勢がいてもおかしくないか。イヴリンに手を引かれて、目の前に見えていたバルコニーへと出る。そこから見えたのは、敷地内に所狭しと並んでいるモンスター達だった。僕の姿が見えたからだろう。モンスター達から歓声があがる。
「目標は?」
「そうこなくっちゃ! 目標は王都の聖夜祝祭! 一年の感謝をささげる日なのにみんな恋人と無駄にえっちしてやがる! 羨ましい……じゃなかった、許すまじ!」
 イヴリンが両手を握り締めてプルプルと小刻みに震える。
「確かに許すまじ! 一年の感謝をせずにそんな事をしやがって! 羨ましい……じゃなかったけしからん!」
「さぁ! みんなが待っている! 号令を!」
 最高潮に盛り上がっているらしいイヴリン。でも腰を折るようで悪いけど、一つ言っておきたい事があった。
「その前に……殺しは一切認めない」
 僕の言葉にイヴリンが呆気にとられたように、こちらを見つめる。さすがにそれを言ったら、期待外れだとか言って殺されてしまうかな。それでも、殺しはできない。
「あっ、当たり前だよ! 殺しなんてそんな怖い事する訳ないよ!」
 イヴリンが殺しという言葉を言うのも嫌という感じで、顔を横に振る。あっそうなの。
「無茶苦茶にするだけ、部下たちだって殺しなんてそんな怖い事できるやつらじゃないよ」
 思うほど恐ろしい組織ではないかもしれない。僕は安心すると、並んで待っているモンスターたちを見下ろす。
「今日は聖夜祝祭! 感謝をささげる日であって恋人と乳繰り合う日では断じてない!」
 僕の声に合わせて同意する怒号が響いた。万を超えるモンスターたちの声が重なって地響きがするほどのうねりへと変化する。非モテ達の魂の叫びに他ならなかった。
「感謝を捧げないのであれば、奴らには救いは無い! そうだろう! 同志たちよ!」
 さらなく声があがる。これぞ非モテの負のパワーだ。
「行くぞ! 聖夜祝祭を叩き潰せ! 行進せよ! リア充爆発しろ!」
「リア充爆発しろ!」
 大砲でも打ち込んだのかと思うほどの、声の重なり。そして、モンスターたちが行進を始める。
「さすが魔王様! 私の目に狂いはなかった!」
 興奮したイヴリンに僕は笑って見せた。そして、イヴリンに手を差し出す。
「ははっ……さぁ行くぞ!」
 イヴリンが「行こう」と呟きながら僕の手を取った。



 こうして二人は出会った。そして、この二人は惹かれ合ってしまう事になる。しかし、周りにはリア充爆発しろとか言っちゃう非モテモンスター達。恋人になろうものなら、いや、甘酸っぱい雰囲気を出しただけでも、万を超えるモンスター達の妬みや嫉みによって八つ裂きにされてしまうだろう。
 これは許されざる恋。二人の恋路は厳しい茨のような道になるだろう。それでもモンスター達の目を欺き、物陰で愛を育む二人の物語は……また機会があったら語るとしよう。
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