ありそうでない話

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 哲也の気を引こうとアピールしてくる集団の中に1人だけ、無関心に黙々と付いている客に酒を作っている男が目に入った。横顔しか見えなかったが、整った可愛らしい顔をしていた。

 あの子……。

 一瞬。泣いているかと思った。それくらい、顔いっぱいに悲しみが溢れ出ていた。笑顔など一切見せずにただ人形のように座っている。

 それでも客はおかまいなしにその子に向けて話しかけ、時折その子の髪を撫でたり、腰に手を回したり、好き勝手に振る舞っていた。高級クラブというには品のない客だった。

 なぜか、その光景がとても不快なものに感じた。哲也は店員を呼んでその子を指名した。すると、隣に座ってすでに他のホストと酒を飲み始めていた知り合いの社長が哲也に話しかけてきた。

『小牧さん、お目が高いねぇ。あの子、このクラブの一番人気らしいですよ』
『そうなんですか』
『あんまり愛想は良くないらしいんだけど。なんせ顔が可愛いし、黙って何でも言うこと聞いてくれるらしくて』
『はあ……そうですか』
『噂によるとさぁ、借金まみれらしいよ。それでここで働いてるってさ』
『借金?』
『なんか、保証人になって逃げられたって。あ、小牧さん、もし気に入ったんだったら持ち帰りもできますよ』
『……ここ、そういうのもアリなんですか?』
『だって、ここ、売り専の出張サービスもやってるから。ここで選んでく人もいるし、最初から出張で頼む人もいるよ』
『いや、だけど……ここで働きながら出張って無理じゃないですか?』
『持ち帰りは即日OKだけど、出張サービスは予約制だからね』
『ああ……そういうことですか』

 そこで、哲也は疑問に思う。

『でも、さっきの子、一番人気なんですよね? だったら出張でほとんど店出れないんじゃないですか?』
『あの子に出張サービス頼むと額が凄いから』

 そこそこお金持ってないと毎回は無理だしね。そう言ってその社長が煙草をくわえる姿をじっと見る。すかさず隣に座っていたホストが火を点けた。
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