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再び携帯が震えた。また栗原からだった。栗原がしつこく電話をしてくるのは珍しい。何かあったのだろうかと少し気になった哲也は、社員に会議を進めているよう促して、携帯を手に取ると廊下に出た。
「もしもし?」
『おいっ、お前、早く出ろよっ』
「ごめんって。会議中だったから。後からかけ直していいか?」
『そんなこと言ってる場合じゃない』
「え?」
『見た』
「は? 何を?」
『陸くん』
「…………」
しん、と一瞬社内の雑音が何も入ってこなくなった。数秒開けて、哲也は呟くような小さな声で栗原に確認する。
「……どこで?」
『駅前。俺んとこの病院の最寄り駅』
「まじか……」
『おお。さっき駅前に用があって歩いてたんだけど、駅のロータリーの反対側にいた』
「確かか?」
『間違いない。けど……』
「……なんだよ」
『……1人じゃなかったぞ』
「……どういうことだ」
『……男と一緒だった』
「…………」
哲也の胸の奥がぐっと押しつぶされるような息苦しさを覚えた。陸が無事だったのは嬉しいが。その一緒にいた男は誰なのだろうか。普通に考えれば。新しい男、と考えるのが自然じゃないだろうか。
『……哲也?』
「聞いてる」
『どうする? 駅で張ってれば会えるかもしれんぞ』
「…………」
『おい。まだ、決まったわけじゃねえだろ。新しい男って』
「お前、俺の心を読むな」
『お前が単純なんだっちゅーの』
「だけど、そう考えるのが普通だろ?もしかしたら、前から男がいて、そいつを取ったのかもしれんし」
『……俺、ちょっと気になることがあるんだけど』
「なんだよ」
『いや、まだ確信が持てないんだよね……。ちょっと調べてみるわ』
「だから、なんだよ」
『分かってから教えるわ。じゃ』
哲也が止める間もなく、電話が唐突に切られた。持っていた携帯をだらりと下ろす。すぐに会議に戻る気にならず、しばらくそこに立ったままぼうっとしていた。
陸に新しい男ができた(たぶん)。自分と別れて2ヶ月も経っていない。
確かに、陸は他のゲイの男が放っておかないような可愛らしい容姿をしているので、すぐに次の相手ができてもおかしくはないだろう。
けれど、もともと人は信じやすいが、そんな簡単に気持ちの切り替えをできるタイプではない陸が、そんなにあっさりと他の男に走ってしまったことに少なからずショックを受けた。
それとも、自分がそう思っていただけで、本当の陸は全く違うタイプだったのかもしれない。それはそれで、哲也に結構な精神的打撃を与えた。
いや、さっき思いついたように、もともと知り合いなのかもしれない。だとしたら陸が二股をかけていたということになる。それもそれで陸らしくない。しかし、陸『らしさ』とはなんなのだろう。
「なんなんだよ……」
哲也の口から心の声が漏れた。突然、陸が遠い存在のように感じた。自分の知っている陸との違和感。陸はとっくの昔に自分とのことなど割り切って、先に進んでいるのかもしれないのに。
年上の自分の方が未練がましく立ち止まったままでいる気がした。
「もしもし?」
『おいっ、お前、早く出ろよっ』
「ごめんって。会議中だったから。後からかけ直していいか?」
『そんなこと言ってる場合じゃない』
「え?」
『見た』
「は? 何を?」
『陸くん』
「…………」
しん、と一瞬社内の雑音が何も入ってこなくなった。数秒開けて、哲也は呟くような小さな声で栗原に確認する。
「……どこで?」
『駅前。俺んとこの病院の最寄り駅』
「まじか……」
『おお。さっき駅前に用があって歩いてたんだけど、駅のロータリーの反対側にいた』
「確かか?」
『間違いない。けど……』
「……なんだよ」
『……1人じゃなかったぞ』
「……どういうことだ」
『……男と一緒だった』
「…………」
哲也の胸の奥がぐっと押しつぶされるような息苦しさを覚えた。陸が無事だったのは嬉しいが。その一緒にいた男は誰なのだろうか。普通に考えれば。新しい男、と考えるのが自然じゃないだろうか。
『……哲也?』
「聞いてる」
『どうする? 駅で張ってれば会えるかもしれんぞ』
「…………」
『おい。まだ、決まったわけじゃねえだろ。新しい男って』
「お前、俺の心を読むな」
『お前が単純なんだっちゅーの』
「だけど、そう考えるのが普通だろ?もしかしたら、前から男がいて、そいつを取ったのかもしれんし」
『……俺、ちょっと気になることがあるんだけど』
「なんだよ」
『いや、まだ確信が持てないんだよね……。ちょっと調べてみるわ』
「だから、なんだよ」
『分かってから教えるわ。じゃ』
哲也が止める間もなく、電話が唐突に切られた。持っていた携帯をだらりと下ろす。すぐに会議に戻る気にならず、しばらくそこに立ったままぼうっとしていた。
陸に新しい男ができた(たぶん)。自分と別れて2ヶ月も経っていない。
確かに、陸は他のゲイの男が放っておかないような可愛らしい容姿をしているので、すぐに次の相手ができてもおかしくはないだろう。
けれど、もともと人は信じやすいが、そんな簡単に気持ちの切り替えをできるタイプではない陸が、そんなにあっさりと他の男に走ってしまったことに少なからずショックを受けた。
それとも、自分がそう思っていただけで、本当の陸は全く違うタイプだったのかもしれない。それはそれで、哲也に結構な精神的打撃を与えた。
いや、さっき思いついたように、もともと知り合いなのかもしれない。だとしたら陸が二股をかけていたということになる。それもそれで陸らしくない。しかし、陸『らしさ』とはなんなのだろう。
「なんなんだよ……」
哲也の口から心の声が漏れた。突然、陸が遠い存在のように感じた。自分の知っている陸との違和感。陸はとっくの昔に自分とのことなど割り切って、先に進んでいるのかもしれないのに。
年上の自分の方が未練がましく立ち止まったままでいる気がした。
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