なんにも知らないのは君だけ【お知らせあります】

文字の大きさ
上 下
15 / 15
本編

高橋くん

しおりを挟む
 そうこうしている内に第3クォーターが始まってしまった。大きな歓声がテレビから響く。とりあえず静止しようとリモコンに手を伸ばした。すると、そのタイミングで電話の向こうから声がした。

『……バスケ?』
「え?」
『バスケ見てんの?』
「そうですけど……。よく分かりましたね」
『……俺も好きだから』
「え? そうなの? これBリーグの試合のだけど、見たことある??」

 周りにBリーグに興味がある人間がいなかったためか、バスケが好きと聞いて嬉しくなり思わず馴れ馴れしく話してしまった。言ってからしまった、と慌てて謝る。

「あの、すみません。馴れ馴れしく。俺の周りでバスケ興味ある人いなくて。ちょっと嬉しくなっちゃって……」

 すると、意外にも電話の相手はその話題に乗ってきてくれた。

『いいよ別に。俺もよく見るし、Bリーグ』
「ほんとに? うわぁ、奇遇だな」
『どこのチームが好きなの?』

 そう聞かれて、須藤の所属チームを挙げた。

『ああ……あそこか、まあまあ強いよな』
「まあまあどころか、めちゃくちゃ強いよ。去年のリーグでも優勝してるし。選手みんなレベル高いし。特に、そこに須藤って選手がいるんだけど、知ってる?」
『……名前は聞いたことあるけど……』
「めちゃめちゃ上手いよ! オフェンスもディフェンスも凄いし、いつも冷静でよく周りを見てるし、あの選手がいるからチームがまとまってるって感じなんだよね」
『そうなんだ』
「うん。今度機会あったら見てみて」
『分かった。見てみる』

 そこから、しばらくBリーグや、バスケ自体の話で盛り上がった。電話の向こうの彼は、バスケが好きだと言うだけあって、知識も豊富で慎弥が知らないようなことも知っており、とても楽しい会話が続いた。

 夢中で話を続けていたが、ふと、彼の最初の目的は友達に電話をかけることだったのを思い出した。

「ごめん。友達に電話しないといけなかったんだよね?」
『ああ……まあ……』
「そしたら切るね。俺の会話に付き合ってくれてありがとう」
『いや……』
「じゃあ」

 そう言って電話を切ろうとしたとき。相手の声が携帯から聞こえてきて、慌てて再び耳に当てた。

「え? なに?」
『……また、電話していい?』
「……え?」
『いや……もっと話したいな、って思って。バスケのこととか』
「ああ……うん、もちろん」
『そしたらまた』
「あっ! ちょっと待って。名前教えてくれる? 電話で話すのに名前知らないとなんか変な感じだから。あ、嫌じゃなかったらだけど」

 そう言ったところで、自分も名乗っていなかったことに気づいた。

「俺は、中村」
『中村……くん』
「中村でいいよ。で、なんて呼んだらいい?」
『……高橋たかはし
「そしたら高橋くん。またね」
『じゃあ』

 そうして電話は切れた。

『高橋』くんか。思わぬところで同じ趣味を持つ仲間と会えた。慎弥は心が弾む感覚を味わいながら、すでに再生が終わってしまっていた録画をリモコンで第3クォーター始めまで戻した。



ーーーーーーーーーーー

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。試し読みはここまでです。続き(加筆・修正版になります)は電子書籍で公開しております。もしご興味のある方がありましたら、ぜひ電子書籍の方をご検討いただけると幸いです。



しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ma2sa2
2021.11.29 ma2sa2

やっとぉぉぉおおお
もういつもまだかなまだかなって楽しみに読んでいてはぁーー幸せです!!!
これからも楽しみにしています!!!

楓
2021.11.30

おおおっ、感想いただきありがとうございます!
楽しみにしていただいていたなんて、とても有り難いです。
本編は本日完結しておりますので、最後まで楽しんでいただけたら幸いです(^_^)ちなみに近い内に続編にあたる話を上げる予定でおります。そちらはがっつりR指定となりますが、良かったらそちらもよろしくお願いいたいます!

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。