なんにも知らないのは君だけ【お知らせあります】

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本編

嫌われてんのかな?

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 そう言われて1ヶ月。その後数回、須藤と顔を合わせたが。慎弥に対しては話すどころか、目を合わせることもほぼなかった。慎弥が来ると、何気に距離を取って近づいてこなかったし、打ち合わせのときはコーチや他の選手に対応を任せてずっと黙っていた。

 不可解なことに、そんな中、視線を感じて顔を上げると必ずと言っていいほど須藤と目が合った。どうやら自分になにかしらの興味はあるらしいが、目を合わせた途端、露骨に逸らされるのでよい意味での興味ではなさそうだった。

 俺、嫌われてんのかな?

 そう思ったが。嫌われようがなんだろうが仕事は仕事だ。イベントが終われば会わなくなるし、どうしても辛かったらまた次同じ企画が上がったときは、他のやつに担当してもらえばいい。

 それに。不本意ながら。そんな風に冷たくされていても、プレーするときの須藤の姿にどんどん惹かれていく自分が否めなかった。惚れたというよりは、憧れ、みたいなものに近い感覚だったのかもしれない。

 相手が男だということも。人気のあるスポーツ選手だということも。更にはどうやら嫌われてしまったということも。全部引っくるめて手の届く存在ではなかったので、半分諦めに近いところからのスタートだったのもあるだろう。

 いつの間にか、一ファンとして須藤を追うようになった。観戦に行けるときは観戦に行き、行けないときは録画したものを見た。Bリーグは、まだ人気が安定してないため地上波で放送されることはない。そのために主に放送されている有料放送の契約までした。

 試合観戦することが、仕事で忙しい毎日の楽しみとなっていた。コート上やスクリーンの向こうの須藤は、慎弥にいつも向ける無愛想な顔はしていない。真剣にボールを追う姿や、自然と見せる笑顔。そんな須藤を見て嬉しくなったり、感動したり。そう、まるでアイドルでも応援するかのような、現実味のない恋心に近い感覚。

 どうせ自分は一生相手も見つからず死んでいくのかもしれないのだから。こんな小さな楽しみを持っても罪はないだろう。誰にも迷惑かけるわけでもないし。

 イベントが終われば須藤と会える口実がなくなってしまうのは少し寂しい気もするけれど。

 自分の下車する駅の名前がアナウンスされる。慎弥は手にしていた雑誌を閉じると鞄へと仕舞った。

 帰ったらビールでも飲みながら録画しておいた試合を見よう。そう決めて電車を降り、改札を抜けると、観戦のお供となるつまみを買うために、自宅マンションのすぐ目の前にあるコンビニへと向かった。
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