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再会
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入ってきた人物は、不機嫌そうに煌生を睨み付けていた。煌生からぶつけられた疑問に荒々しく答える。
「お前のせいやろが」
「……は?」
「来る奴、来る奴、派手に犯しよって。もう誰もお前んとこに来たがらへんねや」
「犯す?」
「せやろが。いくら『奉仕係』言うても限度があるやろ? 相手が気絶するぐらいヤったり、痣付けるまで首絞めたり、お前が無理やり色々やり過ぎたせいでなぁ、俺んとこにお鉢が回ってきてんで!」
「カズに?」
「……馴れ馴れしく呼ばんといてくれ。中村でええ」
そう言って、中村和馬は視線を煌生から外して、苛立たし気にキッチンへと歩いていった。
「お前との再会がこんなんやとは思わへんかったわ」
そう呟いて。
それはこっちのセリフじゃ。
煌生はキッチンへと消えていった、数年振りに再会した男へと心の中で呟いた。
噂には聞いていた。あれから。煌生が家出してから、和馬が組のためにどれだけ尽力をつくしてきたか。お節介にも常に組の様子を報告してくれる奴が何人かいて、話を聞く度に和馬が段々と腕を上げていく様子が分かった。今では組の中でも一目置かれる存在になったということも。
一方で、噂は良いものばかりでもなかった。ある時、煌生の身分を知らないどっかの組のチンピラが、下世話な話でもするように、汚い顔をいやらしく歪めてご丁寧に教えてくれたことがあった。
『五十嵐組には誰にでも尻尾振って鳴く犬がおる』
『組の幹部の上で鳴きまくって、今の地位に上り詰めたらしいで』
『女みたいな顔しとるらしいわ』
『組長にも可愛がられとるみたいやしなぁ』
それが噂の範疇を越えないことは分かっていた。しかし、和馬の名前さえ知らないような奴らにそんな噂を立てられて和馬の耳に入らないわけがなかった。
その時は、そのくだらない話に長々と付き合わされたことに苛ついて、なおも話を続けようとするそのチンピラを無理やり黙らせた。どうやったのかはもう覚えていなかったが。
キッチンから美味そうな匂いが漂ってきた。
煌生はソファから立ち上がると、キッチンへと足を踏み入れた。黙々と料理を続ける和馬の後ろ姿を見つめる。
随分とたくましい体つきになった。高校生の頃は、筋肉がほとんどなく、ひょろひょろの女みたいなか細い体をしていたのに。しかし、生まれつき持っている長いすらっとした手足と、スタイルの良さは健在だった。
「なんでお前なん?」
「……組長命令や」
「親父?」
「……理由は知らん」
「……なあ」
「…………」
「怒ってるん?」
「…………」
和馬は煌生の問いを無視して、皿を取り出し、炒めていた肉野菜をその上に盛り付けた。スプーンで味噌汁を1さじすくって口に運ぶと、火を止めて、味噌汁の入った鍋に蓋をした。そのまま料理に使った調理器具を慣れた手つきで洗っていく。
「カズ」
「馴れ馴れしく呼ぶな言うたやろ」
「これでしか呼んだことないし。それに答えてくれへんし。俺の質問。」
「…………」
「なあ、カズ」
「…………」
「かーずちゃん」
「ああっ、もう、うるさいっ!!」
和馬が、大声で怒鳴って、手に持っていたスポンジとフライパンを荒々しくシンクへ投げ入れた。キッと、煌生の方を睨み付けるとマシンガンのように話し出す。
「ああ、怒っとるよ! 死ぬほど怒っとるよ!! 怒りなんてなぁ、もう飛び越えて、殺したろか思うとるわ!! 俺に何も言わんと出ていきよって! フラフラ遊び呆けて! そのお前の尻拭いを親父も俺らもどんだけやらされたと思うてんねん!!」
「……ごめんて」
「はあ?? なんやその軽い謝罪は!! そんなんで済むようなことちゃうやろ?? 大体なんで親父もお前なんか連れ戻したりしたんや! もう、放っておいたらよかったやんか!!」
「いや、それを俺に言われても……」
「ほんま……帰ってこんかったらよかったんや……」
「…………」
「お前なん……」
勢い良く話していた和馬が、急に声を小さくさせて、俯いた。
「お前のせいやろが」
「……は?」
「来る奴、来る奴、派手に犯しよって。もう誰もお前んとこに来たがらへんねや」
「犯す?」
「せやろが。いくら『奉仕係』言うても限度があるやろ? 相手が気絶するぐらいヤったり、痣付けるまで首絞めたり、お前が無理やり色々やり過ぎたせいでなぁ、俺んとこにお鉢が回ってきてんで!」
「カズに?」
「……馴れ馴れしく呼ばんといてくれ。中村でええ」
そう言って、中村和馬は視線を煌生から外して、苛立たし気にキッチンへと歩いていった。
「お前との再会がこんなんやとは思わへんかったわ」
そう呟いて。
それはこっちのセリフじゃ。
煌生はキッチンへと消えていった、数年振りに再会した男へと心の中で呟いた。
噂には聞いていた。あれから。煌生が家出してから、和馬が組のためにどれだけ尽力をつくしてきたか。お節介にも常に組の様子を報告してくれる奴が何人かいて、話を聞く度に和馬が段々と腕を上げていく様子が分かった。今では組の中でも一目置かれる存在になったということも。
一方で、噂は良いものばかりでもなかった。ある時、煌生の身分を知らないどっかの組のチンピラが、下世話な話でもするように、汚い顔をいやらしく歪めてご丁寧に教えてくれたことがあった。
『五十嵐組には誰にでも尻尾振って鳴く犬がおる』
『組の幹部の上で鳴きまくって、今の地位に上り詰めたらしいで』
『女みたいな顔しとるらしいわ』
『組長にも可愛がられとるみたいやしなぁ』
それが噂の範疇を越えないことは分かっていた。しかし、和馬の名前さえ知らないような奴らにそんな噂を立てられて和馬の耳に入らないわけがなかった。
その時は、そのくだらない話に長々と付き合わされたことに苛ついて、なおも話を続けようとするそのチンピラを無理やり黙らせた。どうやったのかはもう覚えていなかったが。
キッチンから美味そうな匂いが漂ってきた。
煌生はソファから立ち上がると、キッチンへと足を踏み入れた。黙々と料理を続ける和馬の後ろ姿を見つめる。
随分とたくましい体つきになった。高校生の頃は、筋肉がほとんどなく、ひょろひょろの女みたいなか細い体をしていたのに。しかし、生まれつき持っている長いすらっとした手足と、スタイルの良さは健在だった。
「なんでお前なん?」
「……組長命令や」
「親父?」
「……理由は知らん」
「……なあ」
「…………」
「怒ってるん?」
「…………」
和馬は煌生の問いを無視して、皿を取り出し、炒めていた肉野菜をその上に盛り付けた。スプーンで味噌汁を1さじすくって口に運ぶと、火を止めて、味噌汁の入った鍋に蓋をした。そのまま料理に使った調理器具を慣れた手つきで洗っていく。
「カズ」
「馴れ馴れしく呼ぶな言うたやろ」
「これでしか呼んだことないし。それに答えてくれへんし。俺の質問。」
「…………」
「なあ、カズ」
「…………」
「かーずちゃん」
「ああっ、もう、うるさいっ!!」
和馬が、大声で怒鳴って、手に持っていたスポンジとフライパンを荒々しくシンクへ投げ入れた。キッと、煌生の方を睨み付けるとマシンガンのように話し出す。
「ああ、怒っとるよ! 死ぬほど怒っとるよ!! 怒りなんてなぁ、もう飛び越えて、殺したろか思うとるわ!! 俺に何も言わんと出ていきよって! フラフラ遊び呆けて! そのお前の尻拭いを親父も俺らもどんだけやらされたと思うてんねん!!」
「……ごめんて」
「はあ?? なんやその軽い謝罪は!! そんなんで済むようなことちゃうやろ?? 大体なんで親父もお前なんか連れ戻したりしたんや! もう、放っておいたらよかったやんか!!」
「いや、それを俺に言われても……」
「ほんま……帰ってこんかったらよかったんや……」
「…………」
「お前なん……」
勢い良く話していた和馬が、急に声を小さくさせて、俯いた。
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