幽霊と俺

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第一話

男前幽霊

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 そのまま、10分ぐらいは経過したかもしれない。

 まだ??

 その両手はしつこかった。圭介の乳首をこれでもかと愛撫?し続けた。相変わらずただくすぐったいだけだったが、圭介もそろそろその愛撫にも金縛りにも飽きてきた。というか、こんな長く金縛り状態なのも初めてだった。

 そんな圭介の飽きた気配を感じ取ったのか。ぴたっ、と両手の動きが止まった。そして、上に乗っていた幽霊がゆっくりと動くのが分かった。体重がぐっと圭介の上半身へとかかる感じがして耳辺りに何かを感じたと思った瞬間。

「お前、不感症?」

 そう耳元で声がして、驚いて目を開いた。

 うわっ!!

 圭介の目の前に。男がいた。しかも若くて男前の。一瞬。本当に生身の人間が自分の上に乗っていて、圭介と至近距離で見つめ合っているのかと思った。しかし、よく見てみると生きている人間特有の生気が感じられなかった。

 綺麗な奴だな。

 そう思った。年齢も圭介とさほど変わらないように見えた。透き通ったような(実際少し透けていたけど)肌。細くてシュッとした眉に、少し切れ長の瞳。鼻も口もほどよい大きさで細長の顔にぴったりハマっている。ちょこんと付いた泣きぼくろまでが男前さを演出していた。

 そんな外見に加えて、服装はTシャツとジーンズ姿で、どこか欠陥もない(現れる幽霊によって腕がなかったり脚がなかったりすることが時々ある)し、スプラッタな箇所もなかった。細身でスタイルも良さそうだった。圭介がじろじろと男幽霊を観察していると、じっとその様子を見ていた男幽霊が口を開いた。

「人の質問に答えねぇくせに、じろじろ舐め回すように見て失礼じゃね?」

 いや、だから。声が出ないんだって!

 そう目で訴える。それでようやく事態を把握したらしい幽霊は、ああ、という顔をした。その次の瞬間。圭介の体中から緊張感が抜け、体が自由になった。

「長かった~」

 ほっとして息をはく。幽霊がふっと圭介の体から離れた。寝転がる圭介の隣に普通の人間がするようにあぐらをかいて座り込んだ。圭介を見て再び質問してくる。

「で。不感症なの?」
「え?? いや、違うけど」
「全然感じてなかったじゃん。アンともウンとも言わねえし」
「いや、だって。声出ないし。それに、俺、男だけど?」
「男でもアンとかウンとか言うだろ。感じれば」
「……でも、男に触られて感じる方がおかしいだろ?」
「お前、男好きじゃねぇの?」
「は? ……好きじゃないけど……」
「見た感じ好きそうだったけど」
「……いや、違うから」

 こいつは一体何を言っているのだろう。大体、幽霊のくせに。なんでこんな普通に座って、普通に自分と話しているのだろう。そんな、自分が不感症なのか男好きかなんていうことよりもっと色々はっきりさせたいことは山ほどあるのに。
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