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「晃良くん、まだいる??」

 晃良が荷造りを終えたと同時に、玄関から涼の大きな声が聞こえてきた。どたどたと晃良の部屋へと走ってくる。

「まだいるよ」
「良かった、間に合った。晃良くんが出る前に帰ってきたかったからさぁ」
「なんで?」
「何言ってんの、晃良くん。しばらく会えねーじゃん」
「……まあ、そうだけど」
「そうだろ」

 ふふっと、尚人が小さく笑う声が聞こえた。涼がきっと尚人をにらむ。

「なんだよ、尚人。何笑ってんだよ」
「え? だって、涼ちゃん、可愛いから」
「はぁ?? 何が」
「晃良くんとしばらく会えないのが寂しくて急いで帰ってきてさぁ」
「うっせえ、尚人っ! 黙れっ」
「すぐ照れて逆ギレするし」

 ぎゃあぎゃあと言い合いしている2人を尻目に晃良は荷物の最終チェックを済ませた。

「よし、そしたら行ってくる」

 そう言うと、ピタッと言い合いを止めて2人がこちらを見た。

「もう行くの?」
「うん。念のため早めに行く。乗る前に飯も食いたいし」
「晃良くん、送っていこうか?」
「いいって。涼も仕事で疲れてるだろ。せっかく早く終わったんだからのんびりしろって」
「俺も送っていくって言ったんだけど、晃良くんいいって言うから」
「子供じゃないんだから1人で大丈夫だって。てか、慣れてるし」
「そうだけど……」
「そしたら、タクシー呼ぶね」
「うん、ありがとう尚人」

 尚人が呼んでくれたタクシーを待つ間、リビングで2人とたわいない話をして過ごした。確かに、2人と暮らし始めて3ヶ月近く離れるのは初めてかもな、とふと思う。

 タクシーが来たと連絡が入る。立ち上がって、スーツケースをつかむと玄関へと急いだ。尚人と涼が後から付いてくる。靴を履いて立ち上がると2人へと向き合った。

「そしたら、またな」
「うん。黒崎くんによろしく」
「晃良くん、気をつけて」
「ん。わかった」

 晃良は軽く微笑んで2人を見た。

「じゃあ、行ってきます」

 2人が笑顔で同時に返した。

「「行ってらっしゃい」」

 晃良は荷物をつかんでゆっくりと扉を開けると、外へと一歩踏み出した。
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