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This is the moment ㉝
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それから1週間が経った。その間に晃良は退院し、尚人と涼は仕事を再開するため自宅へと戻っていった。
橋での事件以降、晃良に入っていた仕事は全てキャンセルし、他の仕事も入らないよう尚人が手配してくれていた。晃良はそのまま病院のある街に残り、黒崎の元へと通い続けた。
有栖も黒崎の抜けてしまった穴をフォローしなければならず、黒崎の養父母と一緒にアメリカへと帰っていった。
『ジュン、ごめんな。色々迷惑かけて』
『そんなの謝らなくてもいいよ。色々するのは当たり前だから』
有栖がアメリカに戻る前に、尚人たちも含めて話をすることができた。病院に併設されているカフェで事件について少し話した。
あの日。約束の時間を過ぎても待ち合わせ場所に現れない晃良たちを心配した有栖は、すぐに2人の携帯へと連絡を取ったらしい。しかし、どちらも電源が切れていてかからなかったのを不審に思い、すぐに黒崎の時計に仕掛けられたGPSで病院への居場所を突き止めたそうだ。そこから尚人たちにも連絡がいき、尚人と涼が来て晃良が目覚めるまでの間、ずっと晃良と黒崎に付き添っていたらしかった。警察へ臨機応変に対応してくれたのも有栖だった。
『ジュンが一緒に来てくれてて良かったな』
『ほんと? 2人の邪魔しちゃって悪いなと思ってたから、役に立てて良かったけど……』
『邪魔なんてことないって。黒崎もジュンに冷たくしたの悪いと思ってたから』
『そうなの?』
『うん。ジュンに謝るって言ってた』
『ちゃんと謝れるときに謝っとけよ。後悔するぞ』
『……うん』
そんな黒崎とした会話を思い出す。結局、有栖に謝る前にこうなってしまったけれど。
晃良の言葉を聞いて、有栖の表情が少し曇った。きっと晃良と同じことを考えたのだろう。晃良は話題を変えるために、自分の記憶が全て戻ったことを3人に報告した。
『え?? そうなの?? 全部戻ったの??』
『ん。まるっと全部』
『それってどんな感じ? 前と変わった?』
『いや……大して変わんないかな。戻ったって言っても、昔の思い出ってそうしょっちゅう思い出すもんでもないし』
『まあ、確かにそうだよな。俺らだって、子供のときのことなんて、そんなに考えないしな』
『ん。だけど、こういうことがあったんだったなって自然と光景が頭に浮かぶようになったんはやっぱ違うかな、前と』
『そうだろうね。前はこういうことがあったんだなって思うことすらできなかったんだもんね』
『そうだな』
そこでふと全員が黙った。
今みな、黒崎のことを思ったのだろう。記憶を失うかもしれない可能性を抱えたまま、相変わらず眠り続ける黒崎のこと。
皮肉なもんだなと思う。あれほどまでに晃良の記憶が戻るのを望んでいた黒崎が。晃良の記憶が戻った途端、逆の立場になるかもしれないなんてこと、誰が予想しただろうか。
でも。たとえ黒崎が晃良との思い出も、晃良自身すらも忘れてしまっても。晃良にとって、黒崎は黒崎なのだから。今度は彼のために、自分ができることをするだけだ。
橋での事件以降、晃良に入っていた仕事は全てキャンセルし、他の仕事も入らないよう尚人が手配してくれていた。晃良はそのまま病院のある街に残り、黒崎の元へと通い続けた。
有栖も黒崎の抜けてしまった穴をフォローしなければならず、黒崎の養父母と一緒にアメリカへと帰っていった。
『ジュン、ごめんな。色々迷惑かけて』
『そんなの謝らなくてもいいよ。色々するのは当たり前だから』
有栖がアメリカに戻る前に、尚人たちも含めて話をすることができた。病院に併設されているカフェで事件について少し話した。
あの日。約束の時間を過ぎても待ち合わせ場所に現れない晃良たちを心配した有栖は、すぐに2人の携帯へと連絡を取ったらしい。しかし、どちらも電源が切れていてかからなかったのを不審に思い、すぐに黒崎の時計に仕掛けられたGPSで病院への居場所を突き止めたそうだ。そこから尚人たちにも連絡がいき、尚人と涼が来て晃良が目覚めるまでの間、ずっと晃良と黒崎に付き添っていたらしかった。警察へ臨機応変に対応してくれたのも有栖だった。
『ジュンが一緒に来てくれてて良かったな』
『ほんと? 2人の邪魔しちゃって悪いなと思ってたから、役に立てて良かったけど……』
『邪魔なんてことないって。黒崎もジュンに冷たくしたの悪いと思ってたから』
『そうなの?』
『うん。ジュンに謝るって言ってた』
『ちゃんと謝れるときに謝っとけよ。後悔するぞ』
『……うん』
そんな黒崎とした会話を思い出す。結局、有栖に謝る前にこうなってしまったけれど。
晃良の言葉を聞いて、有栖の表情が少し曇った。きっと晃良と同じことを考えたのだろう。晃良は話題を変えるために、自分の記憶が全て戻ったことを3人に報告した。
『え?? そうなの?? 全部戻ったの??』
『ん。まるっと全部』
『それってどんな感じ? 前と変わった?』
『いや……大して変わんないかな。戻ったって言っても、昔の思い出ってそうしょっちゅう思い出すもんでもないし』
『まあ、確かにそうだよな。俺らだって、子供のときのことなんて、そんなに考えないしな』
『ん。だけど、こういうことがあったんだったなって自然と光景が頭に浮かぶようになったんはやっぱ違うかな、前と』
『そうだろうね。前はこういうことがあったんだなって思うことすらできなかったんだもんね』
『そうだな』
そこでふと全員が黙った。
今みな、黒崎のことを思ったのだろう。記憶を失うかもしれない可能性を抱えたまま、相変わらず眠り続ける黒崎のこと。
皮肉なもんだなと思う。あれほどまでに晃良の記憶が戻るのを望んでいた黒崎が。晃良の記憶が戻った途端、逆の立場になるかもしれないなんてこと、誰が予想しただろうか。
でも。たとえ黒崎が晃良との思い出も、晃良自身すらも忘れてしまっても。晃良にとって、黒崎は黒崎なのだから。今度は彼のために、自分ができることをするだけだ。
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