221 / 239
This is the moment ㉕
しおりを挟む
「黒崎っ」
隙のない動きで男へと向かっていく。男は興奮状態のまま、黒崎へと銃口を向けた。左手が激しく震えているのがここからでもわかった。黒崎は銃の照準が定まらないよう、ジグザグとした動きで男へと走る。
「******!!!」
突然、男がわからない言葉で叫び声を上げた。と同時にサイレンサーの付いた銃から音もなく銃弾が飛び出した。
嘘だろ。
あんなに手が震えた状態ならば。撃ったとしても弾丸の動きを熟知している黒崎に当たるわけないと思っていた。だが、銃弾は黒崎を貫いた。ように見えた。黒崎の動きが鈍る。
「くろさきっ!!」
黒崎に向かって走り出した。倒れるかと思ったが、黒崎は倒れなかった。一瞬動きが鈍ったが、そのまま走り続けて男ともみ合いになる。晃良は必死で走った。黒崎が苦痛に満ちた顔でそれでも男から銃を奪おうとしているところへ飛び込む。両手で男の手首を掴むと思い切り捻り上げた。男が悲鳴を上げて、銃を落とした。黒崎が左腕を押さえて、地面に膝を着くのが見えた。しかし、男は諦めなかった。相変わらず血走った目で晃良を睨むと、折れた指をものともせず、晃良の首を右手で絞めてきた。
「は……あ……」
苦しさに顔が歪む。男の方が晃良よりもはるかに体格がいい。力での戦いになると晃良は不利だった。じわじわと首を絞められながら、じりじりと橋の端へと追い詰められた。
「誰かぁっ!! 誰かきてぇー!!」
親子連れの母親が叫ぶ声が聞こえる。ついに欄干まで詰められた。男の左手を掴む晃良の右手も、男の右手を外そうともがく左手にも力が入らなくなっていく。ついに晃良の右手が外れた。男は自由になった左手も使い、両手で晃良の首を絞め上げる。ゆっくりと、体が男の力で持ち上げられた。上半身が欄干を越える。男が何か呟をいた。何を言っているのかはわからないが、この状況なら考えなくてもわかる。
『死ね』
これはかなりやばいかもしれない。まだこのまま川へと落ちた方が、男に首を絞め続けられるより助かる確率は高いのではないか。
「あっ……はっ……」
声にならない掠れた音が喉の奥から出る。苦しい。息ができない。段々と、意識がぼうっとしてきた。そんな中、突然頭にぽっかりと浮かんだのは、黒崎の笑った顔だった。
『アキちゃん』
ふと、晃良は思う。
これはもしや、本当に最後の瞬間が近いということなのだろうか。しかし、不思議と怖さを感じることはなかった。
ここで終わるのはとても残念だけれど。その前に、黒崎と再会できて良かった。少しの時間だったけれど、黒崎と一緒にいられて、黒崎に触れることができて、黒崎に触れられて、言葉を交わし、笑い合い、愛し合い、共有し合い、気持ちを確かめ合うことができたのは、晃良にとっては幸せな人生だったと言えるのかもしれない。
黒崎の怪我が気がかりだけれど。おそらくもうすぐ誰か助けがくるに違いない。きっと黒崎は助かるだろう。
ああ、だけど。記憶が全て戻らなかったのは申し訳なかったなと思う。もう少し時間があったら、もしかすると思い出せたかもしれないのに。それに。尚人や涼にさよならもありがとうも言えなかったことも。
ごめん。
誰に向けるわけでなく頭の中で呟く。
少しずつ意識が遠のいてきた。さっきまでの苦しかった感覚ももうどこかへ行ってしまった。晃良の両手に感覚がなくなっていくのが自分でもわかる。
晃良は死を覚悟した。
隙のない動きで男へと向かっていく。男は興奮状態のまま、黒崎へと銃口を向けた。左手が激しく震えているのがここからでもわかった。黒崎は銃の照準が定まらないよう、ジグザグとした動きで男へと走る。
「******!!!」
突然、男がわからない言葉で叫び声を上げた。と同時にサイレンサーの付いた銃から音もなく銃弾が飛び出した。
嘘だろ。
あんなに手が震えた状態ならば。撃ったとしても弾丸の動きを熟知している黒崎に当たるわけないと思っていた。だが、銃弾は黒崎を貫いた。ように見えた。黒崎の動きが鈍る。
「くろさきっ!!」
黒崎に向かって走り出した。倒れるかと思ったが、黒崎は倒れなかった。一瞬動きが鈍ったが、そのまま走り続けて男ともみ合いになる。晃良は必死で走った。黒崎が苦痛に満ちた顔でそれでも男から銃を奪おうとしているところへ飛び込む。両手で男の手首を掴むと思い切り捻り上げた。男が悲鳴を上げて、銃を落とした。黒崎が左腕を押さえて、地面に膝を着くのが見えた。しかし、男は諦めなかった。相変わらず血走った目で晃良を睨むと、折れた指をものともせず、晃良の首を右手で絞めてきた。
「は……あ……」
苦しさに顔が歪む。男の方が晃良よりもはるかに体格がいい。力での戦いになると晃良は不利だった。じわじわと首を絞められながら、じりじりと橋の端へと追い詰められた。
「誰かぁっ!! 誰かきてぇー!!」
親子連れの母親が叫ぶ声が聞こえる。ついに欄干まで詰められた。男の左手を掴む晃良の右手も、男の右手を外そうともがく左手にも力が入らなくなっていく。ついに晃良の右手が外れた。男は自由になった左手も使い、両手で晃良の首を絞め上げる。ゆっくりと、体が男の力で持ち上げられた。上半身が欄干を越える。男が何か呟をいた。何を言っているのかはわからないが、この状況なら考えなくてもわかる。
『死ね』
これはかなりやばいかもしれない。まだこのまま川へと落ちた方が、男に首を絞め続けられるより助かる確率は高いのではないか。
「あっ……はっ……」
声にならない掠れた音が喉の奥から出る。苦しい。息ができない。段々と、意識がぼうっとしてきた。そんな中、突然頭にぽっかりと浮かんだのは、黒崎の笑った顔だった。
『アキちゃん』
ふと、晃良は思う。
これはもしや、本当に最後の瞬間が近いということなのだろうか。しかし、不思議と怖さを感じることはなかった。
ここで終わるのはとても残念だけれど。その前に、黒崎と再会できて良かった。少しの時間だったけれど、黒崎と一緒にいられて、黒崎に触れることができて、黒崎に触れられて、言葉を交わし、笑い合い、愛し合い、共有し合い、気持ちを確かめ合うことができたのは、晃良にとっては幸せな人生だったと言えるのかもしれない。
黒崎の怪我が気がかりだけれど。おそらくもうすぐ誰か助けがくるに違いない。きっと黒崎は助かるだろう。
ああ、だけど。記憶が全て戻らなかったのは申し訳なかったなと思う。もう少し時間があったら、もしかすると思い出せたかもしれないのに。それに。尚人や涼にさよならもありがとうも言えなかったことも。
ごめん。
誰に向けるわけでなく頭の中で呟く。
少しずつ意識が遠のいてきた。さっきまでの苦しかった感覚ももうどこかへ行ってしまった。晃良の両手に感覚がなくなっていくのが自分でもわかる。
晃良は死を覚悟した。
5
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる