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This is the moment ㉓
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「……まだなってないけど……一応、俺、今、巻き込まれてるわけだし。知る権利あるんじゃないかと思って」
「確かにそれはあるよな。まあ、じゃあ、いっか。教える」
「え?? 本当にいいの??」
「ん。本当は秘密兵器でもなんでもないから。みんな勘違いしてるだけで」
黒崎が晃良の腰に腕を回してぐいっと晃良を引き寄せた。
「一応、内緒話だから」
そう言って、顔を晃良の耳に近づけてきて、囁くように答えを口にした。
「……は?」
その答えは。晃良の予想の範疇を遙かに超えた答えだった。
「まじで?」
「ん、まじで」
「あの、大統領のおっさんが?」
「うん」
「これって……お前だけ? 知ってんの」
「ジュンも知ってる。あと、一緒に研究してるメンバーも。あ、メンバーの素性は公にされてないけどな」
「……秘密兵器じゃ全然ないじゃん。凄ぇ誤解だな」
「まあな。しかも俺の専門じゃないしな。だけど、どうしてもって言われて研究してんの。おかげで俺、命狙われて随分迷惑こうむってんだけど」
「本当だな」
「大統領のおっさんが、ぜーったい秘密にしてくれって言うし。そしたら周りが勝手にあれこれ詮索し出して、それならもう秘密兵器ってことにしとくか、ってなった」
「だけど……お前が大変じゃん」
「そうだけど。大統領のおっさんは親父の幼馴染みで親友だし、俺も助けられてることいっぱいあるからな」
「……もう、なんか次元が違う。話の」
「そう?」
そんな会話をする内に、例の橋が見えてきた。昔、晃良がそこから落ちて記憶を失うきっかけとなった橋。朝からの激しい雨のせいか、水かさが増して激しく流れている音がここからでも聞こえてくる。
「アキちゃん。橋の手前のカーブ曲がったら隠れよ」
「ん」
今、自分たちは相手に背中を見せている状態で、かなり不利な状況にある。向こうの情勢を確認するのが先決だ。
何気ない足どりでカーブを曲がった。その直後に素早く大きな岩の裏に隠れる。しばらくして、複数の足音が聞こえてきた。カーブを曲がったところで少し小走りになり、晃良たちのいる岩場を過ぎて橋へと向かっていく。
4人。自分たちの姿を見失い、橋の上で視線を巡らせている人影を確認する。4人はそのまま橋の向こう側へと消えていった。全員、外国人の男だった。観光客を装ったカジュアルな服に身を包んでいるが、体格からかなり訓練を受けていそうだった。見たところ、ロシア人のようだが、晃良にはそこまで判断できるような知識はない。
「アキちゃん。アキちゃんはこっからふもとまで戻って」
「は?? バカ言うな。お前を置いていけるわけないだろ」
「だけど、これはアキちゃんには関係ないことだから」
「……お前、今更なに言ってんだよ。ここまで関わっといて、関係ないわけないだろ」
「……アキちゃんを巻き込みたくない」
「…………」
黒崎の真剣な瞳とぶつかった。黒崎の、自分を大切に思ってくれる気持ちはよくわかる。よくわかるが。それと同時に黒崎に対する怒りも込み上げてくる。
「……お前、ふざけんな」
「…………」
「だったら、なんで俺の前に現れたんだよ。こうなることはわかってたんだろ? わかってて、俺といるんだろ? とっくに覚悟決めとくことじゃねぇのか。それを今頃になって、逃げるのか」
「アキちゃん……」
「俺はとっくに覚悟決めてる。どうなっても、お前だけ置いて逃げたりしない」
晃良は素早く黒崎の襟元を掴むと引き寄せた。唇を重ねて、離す。
「俺はお前と運命共同体だと思ってる。絶対、離れないからな」
「…………」
黒崎がじっと晃良を見返した。口角を少し上げて微笑む。
「本当にアキちゃんは最高だな。最高過ぎて今、押し倒したいところだけど、あいつら始末してからな」
「……うん」
どちらにせよ、今ここを飛び出してふもとに戻ったところで、追いつかれる可能性が高いし、晃良の存在も知られている。ならば、逃げるよりも相手を倒して大事にしてしまった方が、周囲に知られてしまう分、後々黒崎に接触することが難しくなるだろう。
「確かにそれはあるよな。まあ、じゃあ、いっか。教える」
「え?? 本当にいいの??」
「ん。本当は秘密兵器でもなんでもないから。みんな勘違いしてるだけで」
黒崎が晃良の腰に腕を回してぐいっと晃良を引き寄せた。
「一応、内緒話だから」
そう言って、顔を晃良の耳に近づけてきて、囁くように答えを口にした。
「……は?」
その答えは。晃良の予想の範疇を遙かに超えた答えだった。
「まじで?」
「ん、まじで」
「あの、大統領のおっさんが?」
「うん」
「これって……お前だけ? 知ってんの」
「ジュンも知ってる。あと、一緒に研究してるメンバーも。あ、メンバーの素性は公にされてないけどな」
「……秘密兵器じゃ全然ないじゃん。凄ぇ誤解だな」
「まあな。しかも俺の専門じゃないしな。だけど、どうしてもって言われて研究してんの。おかげで俺、命狙われて随分迷惑こうむってんだけど」
「本当だな」
「大統領のおっさんが、ぜーったい秘密にしてくれって言うし。そしたら周りが勝手にあれこれ詮索し出して、それならもう秘密兵器ってことにしとくか、ってなった」
「だけど……お前が大変じゃん」
「そうだけど。大統領のおっさんは親父の幼馴染みで親友だし、俺も助けられてることいっぱいあるからな」
「……もう、なんか次元が違う。話の」
「そう?」
そんな会話をする内に、例の橋が見えてきた。昔、晃良がそこから落ちて記憶を失うきっかけとなった橋。朝からの激しい雨のせいか、水かさが増して激しく流れている音がここからでも聞こえてくる。
「アキちゃん。橋の手前のカーブ曲がったら隠れよ」
「ん」
今、自分たちは相手に背中を見せている状態で、かなり不利な状況にある。向こうの情勢を確認するのが先決だ。
何気ない足どりでカーブを曲がった。その直後に素早く大きな岩の裏に隠れる。しばらくして、複数の足音が聞こえてきた。カーブを曲がったところで少し小走りになり、晃良たちのいる岩場を過ぎて橋へと向かっていく。
4人。自分たちの姿を見失い、橋の上で視線を巡らせている人影を確認する。4人はそのまま橋の向こう側へと消えていった。全員、外国人の男だった。観光客を装ったカジュアルな服に身を包んでいるが、体格からかなり訓練を受けていそうだった。見たところ、ロシア人のようだが、晃良にはそこまで判断できるような知識はない。
「アキちゃん。アキちゃんはこっからふもとまで戻って」
「は?? バカ言うな。お前を置いていけるわけないだろ」
「だけど、これはアキちゃんには関係ないことだから」
「……お前、今更なに言ってんだよ。ここまで関わっといて、関係ないわけないだろ」
「……アキちゃんを巻き込みたくない」
「…………」
黒崎の真剣な瞳とぶつかった。黒崎の、自分を大切に思ってくれる気持ちはよくわかる。よくわかるが。それと同時に黒崎に対する怒りも込み上げてくる。
「……お前、ふざけんな」
「…………」
「だったら、なんで俺の前に現れたんだよ。こうなることはわかってたんだろ? わかってて、俺といるんだろ? とっくに覚悟決めとくことじゃねぇのか。それを今頃になって、逃げるのか」
「アキちゃん……」
「俺はとっくに覚悟決めてる。どうなっても、お前だけ置いて逃げたりしない」
晃良は素早く黒崎の襟元を掴むと引き寄せた。唇を重ねて、離す。
「俺はお前と運命共同体だと思ってる。絶対、離れないからな」
「…………」
黒崎がじっと晃良を見返した。口角を少し上げて微笑む。
「本当にアキちゃんは最高だな。最高過ぎて今、押し倒したいところだけど、あいつら始末してからな」
「……うん」
どちらにせよ、今ここを飛び出してふもとに戻ったところで、追いつかれる可能性が高いし、晃良の存在も知られている。ならば、逃げるよりも相手を倒して大事にしてしまった方が、周囲に知られてしまう分、後々黒崎に接触することが難しくなるだろう。
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