変態ストーカーの専属BGにはなりません!

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This is the moment ㉑

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 何気なく腕時計を見た。もうここに来てから40分ほど経っていた。これ以上時間を取らせては申し訳ない。

「黒崎、そろそろ行くか」
「うん」
「すみません、時間取ってしまって。すぐお邪魔しますから」
「そんなの、いいのに」
「いや、でも勤務中ですし。本当にありがとうございました」

 軽く会釈をしながらお礼を告げて急いでソファから立ち上がる。出入り口まで歩き出そうとしたそのとき。

「おわっ」

 距離感を間違えて足のすねを思いっきりテーブルにぶつけてよろけた。すかさず黒崎の手が伸びてきて、晃良の腕を取った。

「ちょっと、アキちゃん大丈夫?」
「ん……急いで立ち過ぎた」
「ほんと、おっちょこちょいなんだから。そういうとこ変わらないよね」
「ごめん」
「謝まらなくてもいいけど。気をつけてな」
「うん」

 晃良が恥ずかしそうに笑うと、黒崎も口角を上げて微笑んだ。その様子を見ていた女性が口を開いた。

「あの……1つ聞いてもいい?」
「え? ……はい」
「間違ってたらごめんね。2人はその……お付き合いしてるの?」

 黒崎と顔を見合わせる。黒崎が目だけで晃良に応えた。それを受け、晃良が質問に答える。

「はい」
「……そう」

 女性はうれしいような申し訳ないような複雑な表情を見せた。

「そしたら……きっと私たちは2人にとって本当に酷なことをしてしまったのね」
「先生……」
「あの当時は男の子同士で付き合うなんて思いつきもしなかったし、2人がその……ああいった関係になってたことに動揺してしまって……ちゃんと2人の話も聞かずに、結果的に2人を引き離してしまって……本当にごめんね」
「……もう過ぎたことですから」
「だけど……」
「それに、先生たちの気持ちも理解できますし。あのときだったら、きっとそれが自然の成り行きだったと思います」
「…………」
「先生」

 ここで、今までほとんど自ら発言していなかった黒崎が口を開いた。

「確かにあの、俺は先生たちを恨みました。なんでアキと離れなきゃいけなかったのか。アキと俺は別にやましいことしてるわけじゃないって。必至で訴えようとしたけれど、先生たちはまるで俺らの関係が触れたらダメなことみたいに扱って聞いてもくれなかった。アキの居場所すらも教えてもらえなかった」
「そうよね……ごめんね……」
「……だけど、アキと離れたからこそ、俺はいつかアキを見つけてやる、アキに自由に会えるような力を持ってやるって頑張れたのも事実だから」
「氷雅くん……」
「今は……感謝してます。養父母の世話もしてくれたことも。それがなかったら、今、俺はアキちゃんとこうして一緒にいられなかったと思うから」

 女性は目に涙をいっぱい浮かべて黒崎を見ていた。

「先生」

 晃良は女性へと静かに話しかけた。ニッコリと笑ってゆっくりと頭を下げる。

「ありがとう」
「アキちゃん……」

 女性の目から涙が流れた。きっとずっと2人のことを気にかけてくれていたのだろう。何年もかかってしまったけれど。こうしてお互い気持ちを伝えることができて良かったと思う。
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