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This is the moment ⑳

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「あっ! その顔!」

 突然、大声を出して女性がポケットを探り始めた。そこから、1枚の写真を取り出すと、はいっ、と2人に向けてそれを差し出した。

「これ……」
「これがね、出てきた写真」

 そう言われて写真を受け取る。その小さな枠の中に。幼い2人がいた。何かのイベントだったのだろうか。背景には手作りらしい飾りが、食堂のような部屋に所狭しと取り付けられていた。サンドイッチや、フライドチキン、ポテトやフルーツサラダ。それにジュースなどの飲み物。他の子供たちの楽しそうな姿も映っている。

 そんな風景に囲まれて、写真の中央で小さな晃良と小さな黒崎が顔を見合わせて笑い合っていた。うれしそうに目を細めて笑う晃良と、その晃良を静かな優しい微笑みで見つめる黒崎。

「さっきの2人、この写真の笑顔にそっくりだったわ」
「これは……クリスマスですか?」
「そう。施設で毎年やってるクリスマスパーティー。いつのだったかしら。たぶん……あの事故が起きる前の年だったんじゃないかな……」

 ということは。これが、黒崎と過ごした最後のクリスマスだったのだ。覚えてはいないけれど。このときの2人が楽しい時間を過ごしたことは写真を通して伝わってきた。

「本当にいただいていいんですか?」
「もちろん。他にもあったような気がして探したけど見つからなかったのよ。この写真だけ、うっかり自分の私物と一緒に入れてしまってたみたいなんだけど」

 そこでなんとなくピンときて、ちらっと黒崎を見ると。黒崎が目を泳がせて晃良から視線を逸らした。

 お前の仕業か。

 全く。昔から色々とやらかしてくれていたらしい。おそらく晃良と黒崎に関する写真は、今は全て黒崎の所有物となっているのだろう。
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