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This is the moment ⑫

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 お台場へ着き、夕飯までぶらぶらと辺りを散策した。この日は平日だったが、程よい暖かさの気持ちのいい天気だったせいか、どこもかしこも混み合っていた。ビーチ近くのショッピングモールで、ウッドデッキに座って景色を眺めながら休憩する。

「どこで飯食べる?」
「ああ、そしたら、焼き肉は? 近くに美味い店あるよ」
「ん……じゃあ、そこにするか」
「……アキちゃん、今、また要らんこと考えたよね」
「いや、だって、なぁ?」
「なぁ? じゃないって。そこはジュンとしか行ったことないって」
「別にいいんだけどさぁ。そこで色んな相手と美味しく肉食べて、その後ホテル行ってたのかなぁって」
「行ってないって」
「俺は、そこに行く何番目の連れだったんだろうなぁって」
「もう……なんなの? 俺、これから、外食する度、そう思われるわけ?」
「はは、ごめん、ちょっと、からかってみただけだって。もうしないから」
「……アキちゃん。そういうことしてると、俺も我慢しないから」
「は? 何を?」

 言葉の意味がわからず、隣に座る黒崎に顔を向けた途端。逃げる隙もなく、軽くキスをされた。周りから驚いたような空気が瞬時に伝わってきた。してやったり顔で離れていく黒崎の顔をにらむ。以前、空港でも似たような不意打ちキスを受けていたせいか、今回はそれほど動揺もなかった。ただ、恥ずかしいだけで。

「何すんだよ」
「え? 何ってキスじゃん」
「公共の場ですんな」
「カップルなんだから、いいじゃん」
「いいことない。男同士だし。いい歳したおっさん同士だし。ここ日本だし」
「アキちゃんが悪い。いつまでも弄るから。過去のこと」
「もうしないって言ったじゃん」
「ていうか、俺も好き勝手させてもらえるんだったら、別にいいけど。弄ってくれても」
「なんだよ、どっちだよ」
「えー、どっちがいい?」
「知らんわ」

 こんなノリの中身のない会話が、それからずっと続いた。けれど、それが心地よい。自分が心からリラックスできて、自然に笑える。そしてついでに愛しいと思える。そんな相手に会えたことは奇跡なのではないか。こんな風に隣で笑い合える。それは、この上ない幸せではないか。

『ヒョウちゃん』

 晃良の中で、幼い頃の晃良が黒崎を呼ぶ声がした。思えば、自分と黒崎はあんな小さな頃に出会って、ぴんと張った真っ直ぐな糸ではなかったけれど、何十年となった今もこうしてつながっているのだ。そう、糸。もし、出会った頃からつながっているのなら。きっと自分の記憶もいつか点と点が線で結ばれるようにぴったりしっくりときて、思い出せる日がくるのではないか。そう思う。幼い頃の自分も、今の自分もそれを望んでいることはわかるから。
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