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This is the moment ⑨
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コーヒーをゆっくりと味わった後、遅めの昼食を取りに外食へと向かった。相談の末、以前一緒に食事をしたことのある、イタリアンレストランへ行くことになった。
「いらっしゃいませ、黒崎様。ああ、乾様、先日はご利用いただきありがとうございました」
レストランへと入店してすぐに、店長が歩み寄ってきて丁寧に挨拶された。晃良が前回、尚人と涼と来たのは数ヶ月も前なのに、店長が覚えていてくれたことに驚いた。
「覚えていてくれてたんですか? 名前まで」
「もちろんでございます。お連れ様のことも覚えております」
「お連れ様……?」
そこで、店長の言葉に反応した黒崎が眉を潜めて晃良を見た。
「アキちゃん、誰かと来たの?」
「うん。大分前だけど。尚人と涼と3人で」
「そうなんだ。なんだ、他の男と来たかと思った」
「違う。尚人と買い物出かけてたまたま近くにいたから思い出してさ。ここのパスタ凄ぇ美味かったから、尚人たちにも食べさせたかったんだよ」
こちらへどうぞ、と前回と同じように個室の1つに案内される。2人ともパスタのランチセットを注文した。しばらくたわいもない話をしていたが、黒崎がふと思い出したかのようなさりげないタイミングで晃良に尋ねてきた。
「アキちゃん、この前の話、考えてくれた?」
「……ああ、あれな……」
この前の話。それだけで何かすぐにわかった。アメリカから帰国して以来、ずっと晃良を悩ましてきたことなのだから忘れるはずもない。
日本へ帰る前日の夜。ベッドの中で後ろから黒崎に抱き締められながら言われたのだ。
『アキちゃん。一緒に暮らさない?』
それは、晃良にとってはかなり大きな申し入れだった。東京のそこら辺で同棲するのとはわけが違う。黒崎と暮らすということは、晃良がアメリカに渡り、そこで生活をするということを意味する。尚人や涼と別れて。得意でもない英語がベースとなる環境で。仕事はもともとどこでもできるのでそれほど問題はない。ただ、アメリカに拠点を移したら、日本での仕事や、尚人たちと共にできる仕事は大幅に減るだろう。
黒崎にすぐに会えなくてこんなに寂しい自分がいる。でも一方で、自分の今の生活に満足していてこれを変えたいと願っていない自分もいるのだ。そんな板挟みのような感情で揺れて、どうしても答えを出すことができなかった。それは、黒崎への想いとはまた次元の違うところでの問題だった。恋愛感情だけで突っ走れるような若さは自分にも黒崎にもない。だからこそ、慎重に答えを出さなければお互いを傷つけることになるのではないか。
じっと晃良の言葉を待つ黒崎を見た。
「ごめん。もうちょっと考える時間くれる?」
「……わかった。ゆっくり考えてくれていいから」
「ん。ありがとう」
それから食事を終えるまで、どちらもその話は一切しなかった。
「いらっしゃいませ、黒崎様。ああ、乾様、先日はご利用いただきありがとうございました」
レストランへと入店してすぐに、店長が歩み寄ってきて丁寧に挨拶された。晃良が前回、尚人と涼と来たのは数ヶ月も前なのに、店長が覚えていてくれたことに驚いた。
「覚えていてくれてたんですか? 名前まで」
「もちろんでございます。お連れ様のことも覚えております」
「お連れ様……?」
そこで、店長の言葉に反応した黒崎が眉を潜めて晃良を見た。
「アキちゃん、誰かと来たの?」
「うん。大分前だけど。尚人と涼と3人で」
「そうなんだ。なんだ、他の男と来たかと思った」
「違う。尚人と買い物出かけてたまたま近くにいたから思い出してさ。ここのパスタ凄ぇ美味かったから、尚人たちにも食べさせたかったんだよ」
こちらへどうぞ、と前回と同じように個室の1つに案内される。2人ともパスタのランチセットを注文した。しばらくたわいもない話をしていたが、黒崎がふと思い出したかのようなさりげないタイミングで晃良に尋ねてきた。
「アキちゃん、この前の話、考えてくれた?」
「……ああ、あれな……」
この前の話。それだけで何かすぐにわかった。アメリカから帰国して以来、ずっと晃良を悩ましてきたことなのだから忘れるはずもない。
日本へ帰る前日の夜。ベッドの中で後ろから黒崎に抱き締められながら言われたのだ。
『アキちゃん。一緒に暮らさない?』
それは、晃良にとってはかなり大きな申し入れだった。東京のそこら辺で同棲するのとはわけが違う。黒崎と暮らすということは、晃良がアメリカに渡り、そこで生活をするということを意味する。尚人や涼と別れて。得意でもない英語がベースとなる環境で。仕事はもともとどこでもできるのでそれほど問題はない。ただ、アメリカに拠点を移したら、日本での仕事や、尚人たちと共にできる仕事は大幅に減るだろう。
黒崎にすぐに会えなくてこんなに寂しい自分がいる。でも一方で、自分の今の生活に満足していてこれを変えたいと願っていない自分もいるのだ。そんな板挟みのような感情で揺れて、どうしても答えを出すことができなかった。それは、黒崎への想いとはまた次元の違うところでの問題だった。恋愛感情だけで突っ走れるような若さは自分にも黒崎にもない。だからこそ、慎重に答えを出さなければお互いを傷つけることになるのではないか。
じっと晃良の言葉を待つ黒崎を見た。
「ごめん。もうちょっと考える時間くれる?」
「……わかった。ゆっくり考えてくれていいから」
「ん。ありがとう」
それから食事を終えるまで、どちらもその話は一切しなかった。
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