変態ストーカーの専属BGにはなりません!

文字の大きさ
上 下
199 / 239

This is the moment ③

しおりを挟む
 あの7日間は本当に濃かった。ホテルで初めて結ばれた後、翌日一緒にメリーランド州にある黒崎のアパートまで移動した。有栖と住んでいるという広々とした洒脱しゃだつなアパート。有栖は入れ違いに日本へ行ってしまったので、実質、朝も夜も完全に2人きりだった。

 最初の3日間はとにかく抱き合っていた。朝も夜も関係なく。まるで、抑えが効かなくなった動物のように(特に黒崎が)。食事や風呂以外はベッドでほとんどを過ごし、原始人並みに裸だった。

『ちょっと、もういい加減、落ち着くか』

 さすがに体の限界を感じた晃良は4日目に黒崎に訴えた。

『え~、だって、アキちゃんとまたいつエッチできるかわかんないじゃん』
『だからって、せっかくの休暇にずっとヤッてるだけっておかしいだろ。俺、アメリカにいる意味なくない?』
『アキちゃんが言ったじゃん。休暇中、アキちゃんだけ見てくれって』
『言ったけど。それは別に肉体的にってことじゃなくて。「アキ」のことを一時的に忘れて俺に集中してくれって言う意味だったんだけど』
『めちゃくちゃ集中してるよ』
『そうかもしれねぇけど、別にヤってなくても集中できるだろ』
『ヤってるときの方が集中できる』
『とにかく! 残りの日は観光とかもっと休暇らしいことするぞ』
『え~』
『他のことしないなら、もうヤらない』
『アキちゃん、それはなくない?』
『ある。大いにある。俺の体を労ってくれ』
『え~、もう、わかった~』

 そんな会話の末、渋々と合意した黒崎と、残りの4日間は現代人並みの毎日を過ごすことができた。観光スポットに案内してもらったり、評判のレストランなどに連れていってもらったり、研究所をできる限りで見せてもらったりした。黒崎のアメリカでの生活を垣間見られたことは晃良にとってとても新鮮で、黒崎のことをもっと理解できた気がしてうれしかった。

「晃良くん?」

 間近で名前を呼ばれて我に返った。涼が怪訝けげんそうな顔をしてこちらを見ていた。

「どうしたの?」
「……ああ、ごめん。ちょっと、ぼうっとしてた」
「……黒崎くんとの7日間の情事を思い出してた?」
「だから。その言い方止めろって言ってるだろ」
「でもさぁ」

 そう言って、涼を挟んで向こう側に座る尚人が、美味しそうに煎餅をかじりながら笑顔を向けた。

「良かったね、晃良くん」

 涼も口角を上げて晃良を見る。2人の優しい視線に妙に恥ずかしくなる。

「まあ……そうだな」
「あっさり勝てたしね、過去の晃良くんに」
「勝てた気はしないけどな」
「だけど、結局は黒崎くんが気づいたんだから良かったじゃん。過去より今の方が大事なんだって」
「まあ……」
「晴れて正式に付き合い出したんだし。もう記憶戻んなくてもいいよな?」
「いや、それは別問題だと思ってる」
「そうなの?」
「ん。取り戻せるものなら取り戻したいと思ってる。黒崎のためというか、自分のために」
「どういうこと?」
「昔の記憶は、黒崎と共有した大事な記憶だろ。だから、思い出せたらうれしいなと思う」
「……そう」

 さてと、と晃良は立ち上がった。

「涼は明日仕事だろ? もうそろそろ寝た方がいいんじゃねぇの?」
「晃良くんの休みって明日だけだった?」
「いや、3日間ぐらい取れた」
「いいな~。俺も休みたい」
「涼は先週休んだばかりだろ、1週間」

 そしたら歯磨きして寝るわ。そう言って2人に挨拶してからリビングを出た。明日、黒崎がアメリカからやってくる。1ヶ月振りに会える。あの7日間を過ごしてから。どうしようもなく、黒崎に会いたい気持ちが止まらなかった。

 会いたくて。寂しくて。こんな気持ちにさせられたのは初めてだった。

 洗面所の前に立つ。黒崎と会える喜びに心が躍るような感覚を自覚しながら、晃良は歯ブラシへと手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...