195 / 239
No matter what ㉞
しおりを挟む
突然、少年の黒崎が笑う姿が目に浮かんだ。フラッシュバックのような感覚が晃良を襲う。
え??
頭の中に瞬時に風景が浮かび上がる。
いつも遊ぶ施設の裏庭。
ヒョウちゃんはどこだろう?
昼食の片付け当番だったので、ヒョウちゃんに先に庭に行ってもらったのだけど。裏庭を出てきょろきょろとヒョウちゃんを探す。
あ、いた。
そう思った瞬間、ヒョウちゃんの隣に人影が見えて、思わず足を止めた。ヒョウちゃんが誰かといるなんて珍しい。ああ、あの子は。最近施設に入ってきた女の子だった。自分たちより2つぐらい年上だったはずだ。ヒョウちゃんに少し恥ずかしそうに笑って話しかけている。その子にヒョウちゃんが笑い返して何か答えていた。その顔を見て、胸が苦しくなるのを感じた。
なんでだろう? なんで、胸が苦しいんだろう。
ヒョウちゃんだって。他に友達がいたっていいんだ。むしろそれは、自分が望んできたことじゃないか。もっとヒョウちゃんが他の子たちにも心を開いてくれたら。もっともっと笑顔になってくれたら。
なのに。なんでこんなに胸がチリチリするんだろう。
そこから動けずにただその2人を眺めていた。ふと、ヒョウちゃんがこちらに気づいた。自分を見て嬉しそうに笑う顔。どきり、と心臓が大きな音を立てたのがわかった。それから体が熱くなって、ドキドキドキドキ、心臓の音が自分の体中をぐるぐる回った。
ずっとヒョウちゃんといたい。ヒョウちゃんに笑いかけていてほしい。自分だけに。
はっきりとそう思った。
「アキちゃん?」
黒崎に呼ばれて見上げると、目の前に黒崎の顔があった。まだ繋がった状態のまま、抱き合っていた。
「どうしたの? 痛かった?」
「……違う」
はっきりと思い出した。あれは、「アキ」が黒崎を初めて「好き」だと自覚した時だ。友達としてではなく。恋愛対象として。
ふふっ、と笑い声が漏れた。なんだかおかしかった。やっぱり「アキ」は自分なんだなと思った。自分と同じように嫉妬もするし、それに。
じっと黒崎の顔を見つめる。怪訝な顔をしてこちらを見下ろしている綺麗な顔。
黒崎が自分に言ってくれたのと同じように。出会ってしまえば。どうしたって黒崎に惚れてしまうのだろう。
手を伸ばして黒崎の髪に触れた。さらさらの黒髪の感触を感じながら、優しく撫でる。
「黒崎……」
「ん?」
「お願いがあるんだけど」
「何?」
「……この休暇の間、俺だけ見ててくれるか?」
黒崎の中から「アキ」を消すことはできない。そんなことはわかっているし、望んでもいない。だから。この2人きりの時間だけは。「アキ」ではなく。「アキちゃん」としての自分を、自分だけを見てほしい。
黒崎がキョトンとした顔で晃良を見つめ返した。が、やがてゆっくりと口角を上げて得意げに笑った。
「そんなの、簡単じゃん」
なんなら。そう言って黒崎が顔を下ろしてきた。耳元で囁くように続ける。
「一生でもいいよ」
その、プロポーズのような黒崎の言葉に、晃良はふふっ、と笑う。
黒崎と過ごす1週間。きっと忘れられない1週間となるだろう。
楽しみだな。
黒崎の首に再び腕を回す。数秒見つめ合った後、黒崎のそのふっくらとした唇に唇を押しつけて、休暇の幕開けとなるキスをした。
え??
頭の中に瞬時に風景が浮かび上がる。
いつも遊ぶ施設の裏庭。
ヒョウちゃんはどこだろう?
昼食の片付け当番だったので、ヒョウちゃんに先に庭に行ってもらったのだけど。裏庭を出てきょろきょろとヒョウちゃんを探す。
あ、いた。
そう思った瞬間、ヒョウちゃんの隣に人影が見えて、思わず足を止めた。ヒョウちゃんが誰かといるなんて珍しい。ああ、あの子は。最近施設に入ってきた女の子だった。自分たちより2つぐらい年上だったはずだ。ヒョウちゃんに少し恥ずかしそうに笑って話しかけている。その子にヒョウちゃんが笑い返して何か答えていた。その顔を見て、胸が苦しくなるのを感じた。
なんでだろう? なんで、胸が苦しいんだろう。
ヒョウちゃんだって。他に友達がいたっていいんだ。むしろそれは、自分が望んできたことじゃないか。もっとヒョウちゃんが他の子たちにも心を開いてくれたら。もっともっと笑顔になってくれたら。
なのに。なんでこんなに胸がチリチリするんだろう。
そこから動けずにただその2人を眺めていた。ふと、ヒョウちゃんがこちらに気づいた。自分を見て嬉しそうに笑う顔。どきり、と心臓が大きな音を立てたのがわかった。それから体が熱くなって、ドキドキドキドキ、心臓の音が自分の体中をぐるぐる回った。
ずっとヒョウちゃんといたい。ヒョウちゃんに笑いかけていてほしい。自分だけに。
はっきりとそう思った。
「アキちゃん?」
黒崎に呼ばれて見上げると、目の前に黒崎の顔があった。まだ繋がった状態のまま、抱き合っていた。
「どうしたの? 痛かった?」
「……違う」
はっきりと思い出した。あれは、「アキ」が黒崎を初めて「好き」だと自覚した時だ。友達としてではなく。恋愛対象として。
ふふっ、と笑い声が漏れた。なんだかおかしかった。やっぱり「アキ」は自分なんだなと思った。自分と同じように嫉妬もするし、それに。
じっと黒崎の顔を見つめる。怪訝な顔をしてこちらを見下ろしている綺麗な顔。
黒崎が自分に言ってくれたのと同じように。出会ってしまえば。どうしたって黒崎に惚れてしまうのだろう。
手を伸ばして黒崎の髪に触れた。さらさらの黒髪の感触を感じながら、優しく撫でる。
「黒崎……」
「ん?」
「お願いがあるんだけど」
「何?」
「……この休暇の間、俺だけ見ててくれるか?」
黒崎の中から「アキ」を消すことはできない。そんなことはわかっているし、望んでもいない。だから。この2人きりの時間だけは。「アキ」ではなく。「アキちゃん」としての自分を、自分だけを見てほしい。
黒崎がキョトンとした顔で晃良を見つめ返した。が、やがてゆっくりと口角を上げて得意げに笑った。
「そんなの、簡単じゃん」
なんなら。そう言って黒崎が顔を下ろしてきた。耳元で囁くように続ける。
「一生でもいいよ」
その、プロポーズのような黒崎の言葉に、晃良はふふっ、と笑う。
黒崎と過ごす1週間。きっと忘れられない1週間となるだろう。
楽しみだな。
黒崎の首に再び腕を回す。数秒見つめ合った後、黒崎のそのふっくらとした唇に唇を押しつけて、休暇の幕開けとなるキスをした。
5
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる