上 下
159 / 239

Ready to fight ⑰

しおりを挟む
 軽く黒埼をいなしつつ浴室へと向かった。シャワーを浴びる内に、だんだんと緊張していく自分を自覚した。そうか。今、黒埼と2人きりなのだ。自分の気持ちを認めてから完全に2人きりの空間になるのは初めてだった。

 あの我儘わがまま放題のストーカー黒埼に好き勝手をさせる気は毛頭ない。けれど、もっと自分の気持ちに正直になると決意したし、昔の自分を越える努力をするつもりでもあるし、この状況ならば何か進展がないとも限らない。今まで拒否するのが当たり前だったので、果たして自分が今までの態度を改めて臨機応変に行動に移せるのか疑問ではあるが。

 ま、いっか。 

 色々考えても仕方ない。晃良が努力しようとなんだろうと、現時点での黒埼の言動は変わらないだろう。そう。「アキ」を待っている黒埼は。だから重要なのは、これから自分が変えていけるかどうかだ。

 浴室から出てリビングへと戻ると、黒埼がPCを取り出してコタツの上で何やら作業をしていた。キッチンで炭酸水をグラスに注いでから、コタツの中に入る。

「仕事か?」
「ん。研究についての問い合わせが多くて、今。空き時間に対応しないとまっていく一方だから」

 研究、と聞いて今朝方のニュースの件を思い出した。公共の電波を通じて晃良の「ベッドの中」での奉仕行為まで暴露した黒埼が浮かび、沸々と怒りが舞い戻ってきた。怒りをぶつけたくなり、斜め前に座る黒埼の頭を思いっきりはたいた。

「いったぁっ!! ちょっと、何すんの、アキちゃん! なんで俺、殴られてんの??」

 黒埼が不満そうな顔をして晃良を見た。

「お前、あれ、なんだよ。今日のニュース」
「……ああ、あれ? やっぱ、アキちゃん、見てくれたんだぁ。絶対、見てくれるだろうと思った」
「なんで俺があのニュース見てんの知ってんだよ」
「え? だってアキちゃんとこ、いつもケーブルテレビ流れてるじゃん、朝」
「そうだけど……。お前が泊まる時にも点いてたか?」
「どうだったかなぁ?」
「……なあ」
「ん?」
「もう考えないようにしとこうと思ってたど、やっぱ聞くわ」
「何を?」
「正直に言ってくれ。怒んないから。この家に何が仕掛けられてんだ」
「……本当に知りたい?」
「知りたい」
「知ってどうすんの? あれは俺のアキちゃんライフラインだから取られると困るんだけど」
「取らないから。居場所は教えてくれなくていい。何かだけ教えてくれね? 俺の中のモヤモヤをスッキリさせたいだけだから。どうせ取ってもまた付けるだろうし、そこんとこはもう諦めてるから」
「……どうしたの? アキちゃん。やっぱ最近おかしいな」
「そんなことないけどな」
「いや、あるよ。なんだろ……トゲトゲしさがなくなったって言うか……。まあ、さっきは久しぶりにたたかれたけど。なんで急にそんなしおらしくなったの?」
「これも俺の一部だって」
「……可愛いところがあるのは分かってるけど……。今までいっつも怒られてばっかりだったから、なんか調子狂う」
「で、教えてくれるのか?」
「いいけど……。えーと、この家に付けてるのは、『アキちゃんボイス』だけかな。『アキちゃんカメラ』はこの前アキちゃんに怒られてから付けてないし」
「『アキちゃんボイス』って何?」
「マイク。小型の。場所は言えないけど」
「なるほどな……」

 以前、教えていないのに黒埼たちが晃良たちの旅行先に現れたりしたのも、ここで晃良たちが計画を立てているのを聞いていたからか。でも。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【BL】はるおみ先輩はトコトン押しに弱い!

三崎こはく
BL
 サラリーマンの赤根春臣(あかね はるおみ)は、決断力がなく人生流されがち。仕事はへっぽこ、飲み会では酔い潰れてばかり、 果ては29歳の誕生日に彼女にフラれてしまうというダメっぷり。  ある飲み会の夜。酔っ払った春臣はイケメンの後輩・白浜律希(しらはま りつき)と身体の関係を持ってしまう。  大変なことをしてしまったと焦る春臣。  しかしその夜以降、律希はやたらグイグイ来るように――?  イケメンワンコ後輩×押しに弱いダメリーマン★☆軽快オフィスラブ♪ ※別サイトにも投稿しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

「イケメン滅びろ」って呪ったら

竜也りく
BL
うわー……。 廊下の向こうから我が校きってのイケメン佐々木が、女どもを引き連れてこっちに向かって歩いてくるのを発見し、オレは心の中で盛大にため息をついた。大名行列かよ。 「チッ、イケメン滅びろ」 つい口からそんな言葉が転がり出た瞬間。 「うわっ!?」 腕をグイッと後ろに引っ張られたかと思ったら、暗がりに引きずり込まれ、目の前で扉が閉まった。 -------- 腹黒系イケメン攻×ちょっとだけお人好しなフツメン受 ※毎回2000文字程度 ※『小説家になろう』でも掲載しています

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...