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Ready to fight ⑯

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「あ」

 涼とカフェの前で別れて、1時間ほど軽く走ってから自宅へ戻ると。

「おかえり、アキちゃん」

 黒埼がリビングで晃良を迎えてくれた。今日は丸ぶちの眼鏡をかけている。やっぱり来たんだ、と言おうとしたところで、妙な違和感に眉を潜めた。数秒考えてその違和感が何かに気づく。

「おいおい、なんだこれは」

 その違和感の元へと近寄った。その中へと居心地よさそうに脚を突っ込みながら、きょとんとした顔で黒崎がこちらを見上げた。

「何って、コタツ」
「いや、そうだけど。うちにコタツなんてなかっただろ」
「うん。だから買った。アキちゃん家、日本なのにコタツもないなんて日本人失格じゃん」
「でも、このマンション、床暖房だから」
「えー、だけど日本の冬はコタツにみかんでしょ? あ、アキちゃん、みかん食べる?」
「食べる。いや、食べるけど。そうじゃなくて。もう冬終わりだし。それに、うちのコーヒーテーブルどこいった?」
「ああ、邪魔だからあげた」
「はあ?? 誰に??」
「お隣の人。欲しい? 言ったら欲しいって言ったから。なんて人だったっけなぁ、あ、そうそう、斉藤さんって人」
「いや、隣の人と会ったことないし」
「まあ、でも要らないじゃん、もう。ほら、アキちゃん入って。温かいよ」
「ほんとにもう……」

 黒崎に促されて、渋々コタツへ潜り込む。中はほどよい温度に調整されていて、足にじんわりと温かさが広がった。そこでふと、家に他の人間の気配がしないことに気づいた。

「みんなは?」
「ヤスは買い物に行った。服見たいって。久間くんはいなかったし、酉井くんは妹から電話あって心配だから様子見てくるって出ていった」
「涼がよく文句言わなかったな、コタツ」
「それどころじゃなかったみたいだったけど。急いで出ていったから」
「とりあえず俺、シャワーして着替えてくるわ」
「一緒にシャワーする?」
「しない」
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