上 下
155 / 239

Ready to fight ⑬

しおりを挟む
 2人は近所のOLや子連れの母親たちでにぎわう洒落しゃれたカフェに入った。晃良はホットコーヒーを頼んで、涼はホットチョコレートを頼んだ。飲み物が運ばれてきてから、晃良は何気に口を開いた。

「妹さんもずっと父親と会ってないんだろ?」
「……うん。俺が高校くらいん時にあいつが勝手に失踪したからな」
「ギャンブル……だったっけ?」
「それと酒。あと、女。ほんと、救いようもないわ、あいつ」
「そうか……」

 涼がまっていたものを吐き出すように話し始めた。晃良はそのまま聞き手に回る。

「久しぶりに現れたと思ったら、金せびりに来るし。もう父親なんて思ってないけどな。なんちゅーかさぁ……俺、悔しいんだよ」
「…………」
「うん、そうだわ晃良くん。俺、悔しいわ。俺の中にあいつの血が半分混ざってんのかと思うと。ほんと嫌んなるし、なんで俺の親ってこんなんなんだろうって」
「涼……」
「そんでさぁ、あと半分がまともだったらまだ救いになるじゃん? だけど、そっちもどうしようもなかったし」
「母親のことか?」
「……確かに、発端はギャンブルで借金まみれになったあいつのせいだとは思う。だけど、あいつが失踪した途端、俺と妹捨てて、男と逃げたあの女も最低だろ」
「そうだな……」
「あの後、俺らが失踪宣告してあいつらと縁が切れるまで、俺も妹も死ぬほど辛かったから」
「そうだろうな……」

 涼と涼の妹のことは少しだけだが涼から事情は聞いていた。涼の父親が多額の借金を背負ったまま失踪してすぐ、母親も他の男と失踪した。残された高校生の涼と中学生の妹は、親戚(母方の叔父:和)のサポートを少しだが受けながら(叔父は同居を申し出てくれたらしいが、そこも自営業で行き詰まっており余裕がないのを知っていた涼が断った)、涼が職に就くまでアルバイトと生活保護などでなんとか生計を立てていたという。

 両親が失踪して数年は、借金取りの執拗しつような取り立てなどもあったらしい。連帯保証人にならない限り、子供には親の借金の返済義務はないのだが、それでも借金取りはあの手この手で涼たちに返済を迫ってきたらしい。涼が警察官となってようやく借金取りは現れなくなったそうだ。失踪から7年経てば両親の失踪宣告が可能になり、借金を相続しないよう相続放棄の手続きをすることができる。その7年を涼と妹は本当に心待ちにして、ようやく縁が切れたのだった。

 尚人と同様、涼も家族には恵まれなかったのだ。
しおりを挟む

処理中です...