変態ストーカーの専属BGにはなりません！

Out of control ⑭

「尚人か？？　何してたんだよ！　はよ電話出ろよっ！」

　その涼の大きな声で我に返る。そうだ。落ち込んでいる暇はない。自分を責めるのは後からでもできる。早く黒埼を助け出さなければ。

「黒埼くんが拉致された。そう。で、番号言うから。照合して。ん。たぶん盗難車だと思うけど。ん。黒埼くん、携帯持ってたよな？　は？　そこにある？？　あの人忘れてったわけ？？　こんなときに」

　ほんと、あの人バカじゃねぇーの、と悪態をついている涼を見て、はっと思い出した。

「涼、代わってくれ」

　涼がバンのナンバープレートにあった番号を伝えた後、電話を代わってもらう。

「もしもし、尚人？」
『あっ、晃良くん？？　どうなってんの？？　大丈夫？？』
「まだ状況はよくわからない。黒埼が拉致されたんだと思う」
『今、番号調べてるけど。盗難車の可能性が高い』
「尚人、ジュン隣にいるだろ？」
『え？　あ、うん、いるけど』
「ジュンに代わってくれるか？」
『わかった』

　しばらくすると、有栖が電話口に出た。

『もしもしアッキー？？　ガッちゃん、大丈夫？？』
「まだわからない。だけど、居場所を突き止めることがとにかく先決だから。で、黒埼って今日は時計してたか？　俺、覚えてないんだけど」
『うん、してるはず。……あっ！！　そうか、GPSだね』
「ん。そこから追跡できるはずだから。尚人に手伝ってもらって探してくれるか？　俺らはこれから車で出るから」
『わかった』
「とりあえず一旦切るな。特定できたらまた教えてくれ」
『うん』

　涼に状況を説明しながら、素早く涼の車に乗り込む。シートベルトを掴つかんだ。

「そういや発信器付けてたな」
「ん。あいつよく逃亡するらしいからな」
「ラッキーだったな。あの人ちょっと抜けてるみたいだし」
「よく忘れ物するみたいだからな」
「……晃良くん」
「ん？」
「大丈夫？」
「……何が？」
「……泣きそうな顔してるから」
「…………」

　涼がキーを差してエンジンをかけながら答えた。視線は前を向いたまま。

　指摘されなくてもわかっている。今、自分は冷静ではない。平静なフリをしているけれど。顔は引きつっているし、声は震えている。隠し切れていないのもわかっている。

　そう。本当は。わめきたいくらい、心が悲鳴を上げている。心配、と一言で済ませられるような簡単なものではなくて。もっと、足元がぐらつくような、全身が震えるような、激しい感情。

　今、自分の前から黒埼が消えてしまったら。考えたこともなかった疑問が唐突に突きつけられる。その可能性を無理やりに押しつけられる。

　そうなったら、自分はどうなるのだろう。考えたくもなかった。いっそのこと、昔の自分みたいに記憶をなくしてしまえば楽なのかもしれない。

　自分でも驚きだった。黒埼の身に何か起きたのではと考えただけで。黒埼がいなくなるかもしないと思っただけで。

　こんなに揺すぶられるなんて。

　黒埼に対する自分の気持ちをいつまで抑えられるのか。自分がコントロールできる限界を超えてしまったらと思うと怖くなる。

　こんなことは初めてだった。