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Out of control ⑪

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「ちょ……ん……」

 軽いキスで終わると思いきや、するっと黒埼の舌が入ってくる。驚いて黒埼の両腕をつかんで引き離そうとしたが、なぜか手に力が入らなかった。真っ昼間の映画館の中。がらがらとは言え、他の目だってあるのに。しかも男同士。いつもに増して優しい黒崎の舌の動き。そんな状況が逆に晃良を刺激して、正常な判断ができなくなっていたのかもしれない。なぜか抵抗する気が失せた。

 結局。映画そっちのけで、長い間そのキスは続いた。おかげでその間、晃良は怖い思いをせずに済んだが。

 黒埼の手が服の中に入ってきたときはさすがに止めた。唇を離して、注意する。

「止めろ」
「いいじゃん、ちょっとだけ。誰も気づかないって」
「殺すぞ」
「えー、もう、アキちゃんのケチ」
「……ほんとに、なんなんだよ、急に」
「いや、だって」

 そう言ってにやりと黒埼が笑ったのがわかった。耳元でささやくようにつぶやく。

「アキちゃんの怖がる顔がエロかったから。それ思い出したら我慢できなかった」
「……ほんとに変態だな」
「俺だけじゃないって」
「は? 何が」
「あれ」

 示された前方を見ると。自分たちより数列前に座っていたカップルの影が、映画を観ているには不自然な動きをしていた。

「……変態ばっかだな」
「男だったら普通だって」
「いや、俺、そんなの思わねぇし」

 そこではっとする。

「お前もしかして、最初からこのつもりだったのか? 映画観る気なんて、さらさらなかったんじゃねぇの?」
「え? どうだろ?」
「とぼけるな。お前のその性格だったら十分あり得る」
「だって1回してみたかったし。映画館でいちゃいちゃ」
「出たな……本音が」
「うん。だから、もう1回ちゅーしよ」
「いや、しない」

 黒崎の訳のわからない策略にはめられたことに腹を立てた晃良は、ぐずる黒崎を無視して映画館を後にした。結局、映画も最後まで観なかった。どちらにしろ内容を追えていなかったし、これ以上「何か」におび怯えるのはこりごりだった。

 黒崎はぶつぶつと文句を言いながらも、晃良に続いて映画館から出てきた。
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