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Touched on the past ⑱
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「俺が目を覚まして施設に戻ったとき……」
「…………」
「アキはもう別の病院に移されて、施設も変わってた」
「…………」
「先生たちを問い詰めた。なんで? って。そしたら言われた。男同士で一緒にはなれないって」
「…………」
「気づかれたんだなってわかった。俺たちのこと」
一拍置いて、黒埼が話を続けた。
「きっかけはよくわからない。4年生だか5年生ぐらいになって、気が付いたら、俺とアキはそういうことしてた。一緒にいるのが当たり前で、お互いのことをもっと知りたい、もっと近くなりたい、そう思ったんだと思う。部屋は別だったけど、チャンスがあればアキの部屋で一緒に寝た。そのときに2人でよく触ってた」
「それって……どこまで……?」
「……子供だったから。セックスの仕方なんて知らなかったし。ていうか、アキはまだそういうのできる体でもなかったし。だから、ただ手とかで触り合ってただけ」
「…………」
「俺たちも、どっかで駄目だって思ってたんだと思う。先生たちに隠れるようにやってたし。だけど、止めようとは思わなかった。それくらい、俺とアキにとっては自然なことだったから」
黒埼が言った通り。自分ではない、誰かと黒埼の話を聞いているようだった。実感が沸かない、というのはまさしくこんな感覚なのかもしれない。
黒埼が話を止めて、じっと晃良を見た。その愛情の籠もった視線に、晃良は戸惑う。黒埼の見ている自分と黒埼を見ている自分が微かにずれているような感覚。
黒埼の手が音もなく伸びてきた。晃良の頬に優しく触れる。
「こんな風に……よく触ってた」
そう呟いて、黒埼が顔を近づけてきた。どうしていいかわからない。黒埼に対する感情がぐちゃぐちゃで、上手く整理できない。幼い頃の2人がお互いに想い合っていた事実は晃良の予想を超えていて、そこに理解がついてこなかった。まだ、自分にはこの黒埼の気持ちを受け入れる準備ができていない。たとえ、小さい頃の自分が、黒埼とどれだけ親密だったとしても。今の自分が昔の自分と同じぐらい黒埼に深い「恋愛感情」を持つことができるかどうか自信はなかった。
優しく、黒埼の唇が晃良の唇に触れた。その瞬間。晃良の体がびくりと強張った。それに反応して素早く黒埼の唇が離された。黒埼の悲しみを含んだ瞳とぶつかる。晃良は胸の奥がぐっと掴まれたように苦しくなった。
黒埼を傷つけた。
今、晃良は、黒埼の唇を受け入れることができなかった。一瞬の迷い。一瞬の恐怖。そして一瞬の拒絶。それが伝わってしまった。
「黒埼………」
謝りたいのに言葉が出ない。
黒埼は、何も言わずに晃良から目を逸らして数秒俯くと、顔を上げて再び晃良を見た。そのときには、いつもと変わらない黒埼の顔に戻っていた。口角を少しだけ上げて微笑む。
「アキちゃん、そろそろ行こ。遅くなる」
「……うん」
「…………」
「アキはもう別の病院に移されて、施設も変わってた」
「…………」
「先生たちを問い詰めた。なんで? って。そしたら言われた。男同士で一緒にはなれないって」
「…………」
「気づかれたんだなってわかった。俺たちのこと」
一拍置いて、黒埼が話を続けた。
「きっかけはよくわからない。4年生だか5年生ぐらいになって、気が付いたら、俺とアキはそういうことしてた。一緒にいるのが当たり前で、お互いのことをもっと知りたい、もっと近くなりたい、そう思ったんだと思う。部屋は別だったけど、チャンスがあればアキの部屋で一緒に寝た。そのときに2人でよく触ってた」
「それって……どこまで……?」
「……子供だったから。セックスの仕方なんて知らなかったし。ていうか、アキはまだそういうのできる体でもなかったし。だから、ただ手とかで触り合ってただけ」
「…………」
「俺たちも、どっかで駄目だって思ってたんだと思う。先生たちに隠れるようにやってたし。だけど、止めようとは思わなかった。それくらい、俺とアキにとっては自然なことだったから」
黒埼が言った通り。自分ではない、誰かと黒埼の話を聞いているようだった。実感が沸かない、というのはまさしくこんな感覚なのかもしれない。
黒埼が話を止めて、じっと晃良を見た。その愛情の籠もった視線に、晃良は戸惑う。黒埼の見ている自分と黒埼を見ている自分が微かにずれているような感覚。
黒埼の手が音もなく伸びてきた。晃良の頬に優しく触れる。
「こんな風に……よく触ってた」
そう呟いて、黒埼が顔を近づけてきた。どうしていいかわからない。黒埼に対する感情がぐちゃぐちゃで、上手く整理できない。幼い頃の2人がお互いに想い合っていた事実は晃良の予想を超えていて、そこに理解がついてこなかった。まだ、自分にはこの黒埼の気持ちを受け入れる準備ができていない。たとえ、小さい頃の自分が、黒埼とどれだけ親密だったとしても。今の自分が昔の自分と同じぐらい黒埼に深い「恋愛感情」を持つことができるかどうか自信はなかった。
優しく、黒埼の唇が晃良の唇に触れた。その瞬間。晃良の体がびくりと強張った。それに反応して素早く黒埼の唇が離された。黒埼の悲しみを含んだ瞳とぶつかる。晃良は胸の奥がぐっと掴まれたように苦しくなった。
黒埼を傷つけた。
今、晃良は、黒埼の唇を受け入れることができなかった。一瞬の迷い。一瞬の恐怖。そして一瞬の拒絶。それが伝わってしまった。
「黒埼………」
謝りたいのに言葉が出ない。
黒埼は、何も言わずに晃良から目を逸らして数秒俯くと、顔を上げて再び晃良を見た。そのときには、いつもと変わらない黒埼の顔に戻っていた。口角を少しだけ上げて微笑む。
「アキちゃん、そろそろ行こ。遅くなる」
「……うん」
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