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Touched on the past ⑦

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「ほら、アキちゃん、こっちおいで」
「…………」

 これが尚人の言っていた、エッチするでしょ? みたいな感じの寝室か、と晃良は納得した。寝室にドアはなく、畳のリビングに直結しているところまでは晃良たちの部屋と一緒だったが、直結部分以外は寝室がオープンではなく、木製の枠で囲まれた状態だった。それは微かに開放感を残しつつ、密閉感も醸し出したまさにお忍びにはぴったり、のような雰囲気の洋室となっていた。セミダブルのベッドも最初からぴったりとくっつけられており、ハリウッドスタイルにされていた。サイドテーブルのランプは暖色系で明るさが抑えられ、それがいやらしさを助長していた。

 そのベッドの上に黒埼がすでに横になって、晃良を待っていた。しつこく露天風呂に誘われて、あまりのしつこさに渋々一緒に入ったが、黒埼が触れられないように常に距離を取って、ひのきの浴槽の端と端で落ち着かない入浴を済ませた(黒埼は終始ブツブツと文句を言っていたが)。晃良が気乗りしない態度でだらだらと風呂から出て寝る準備をしている間に、黒埼はさっさとベッドに転がり込んだらしい。
 
 晃良は、はぁっ、と大きな溜息ためいきを1つ吐いて覚悟を決めると、決戦直前の武士のような気持ちでずかずかと寝室へ入った。広々としたベッドへと黒埼から少し距離を置いて横になる。すると直ぐに黒埼から抗議の声が上がった。

「ちょっと、アキちゃん。そんなに遠かったらぎゅってできないんだけど」
「…………」

 あのラブホテル事件があった日のように、今の晃良は疲労困憊こんぱいで抵抗する力が残っていなかった。精神的にも肉体的にもリラックスできず、酒も入ったせいか頭もあまり回っていない。そんな状態でも、ここで無理に抵抗したら倍返しで酷い要求をされるであろうことは予測できた。

 晃良は無言でこぞこそと黒埼に近づいた。

「後ろ向いて」

 そう言われてその通りにすると、後ろからぎゅっと抱き締められる。前にされたときにも感じた懐かしい感覚が晃良の中に生まれた。こんなに腹が立っているのに不思議なものだ。しばらく黙ってその状態でじっとしていたが、おもむろに黒埼がつぶやいた。

「なんか……違う」
「は?」
「なんかしっくりこない」
「何が?」
「浴衣だからかな? ベッドと浴衣って俺ん中で結びつかない」
「そうか……?」
「ん。あっ、そしたら、アキちゃん、こっち」

 黒埼がそう言って、晃良の腕と取った。わけのわからないまま黒埼に引っ張られていく。

 寝室部分と畳のリビングの境目をよいしょ、とまたいだ。
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