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Going out with you ⑰

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 数秒、沈黙が流れた。集団の1人の男の子が、下を向いて黙っている男の子の腕を取った。

「行こう」

 そうして、集団はすごすごとその場を去っていった。黒埼はその少年たちには目もくれず、黒埼を見上げている背の高い少年へと向き合った。

「なあ。もし本当に、お前がその子のこと本気で大切に思ってるんだったら、一生、離れずに守ってやれよ」

 背の高い少年がじっと黒埼を見返した。黒崎が腰をかがめ、少年の目をのぞき込むようにして言葉を続けた。

「何があっても、離れんなよ」

 少年は意志の籠もった目で黒埼を見つめたまま、小さく頷いた。

 黒埼のその一言に、晃良の心が揺すぶられる。

『何があっても、離れんなよ』

 その言葉は、自分に向けられたような気がした。自分の中にいる、幼い頃の自分に。

 晃良は、泣いたまま座っている小さな少年へと近づいて、しゃがみ込んだ。散らばってしまったたこ焼きを拾っていく。少年は顔を上げて晃良を見てから、晃良の抱えているぬいぐるみにちらりと目を留めた。

「たこ焼き、汚れて残念だったな」
「うん……。あいつらに落とされたから」
「そうか……。なあ、おじさんたちな、さっきたこ焼き買ったんだけど、もう腹いっぱいになっちゃったんだよ。よかったら食べてくれないかな?」

 そう言って、晃良は買っていたたこ焼きを差し出した。その子は戸惑うように晃良を見た。

「でも……」
「食べずに捨てたりしたらもったいないし。な?」

 そう言うと、その男の子は困ったように背の高い男の子を見た。すると、見られた男の子が小さくその子に頷(うなず)いた。小さい方の男の子はおずおずと晃良からたこ焼きの入ったパックを受け取った。

「ありがとう」
「どういたしまして。こっちも食べてもらえると助かるから」

 あ、そうそう、とついでのように装って、晃良は抱いていたぬいぐるみも男の子へと差し出した。

「これも、もらってくれるかな?」
「え?? でも……」
「俺な、本当は、他の……そうそう、白ブタのぬいぐるみが欲しかったんだよ。後から白ブタにすればよかったって後悔してたところでさ。だからこれは、本当に欲しい子にあげたいなと思って。これ、欲しかったんだろ?」
「なんで知ってるの?」
「偶然、聞いたんだ。欲しいって言ってるの。店の前で」
「でも……お兄ちゃん、白ブタのぬいぐるみも取れるの?」
「取れる。あのな、あの、眼鏡かけたおじさんの友達な、男前なだけじゃなくて、射的も凄く上手いんだよ。だから、また白ブタも取ってくれるって信じてるから。大丈夫」
「そうなの?」
「うん。だから。これはもらってくれるかな?」
「……ありがとう」

 男の子はうれしそうにぬいぐるみを受け取った。大事そうにぎゅっと抱き締める。もう1人の男の子が晃良に向けて小さくお辞儀をした。笑顔を返してそれに応えた。

 さてと、と立ち上がる。黒埼の方を向く。せっかく取ってくれたぬいぐるみと、黒埼が楽しみにしていたたこ焼きを勝手に譲ってしまったので、怒っているだろうかと思ったが、黒埼は怒った様子もなく少し微笑んでこちらを見ていた。

 もしかしたら、最初からできればこの男の子にぬいぐるみをあげようと思っていたことに気づいていたのかもしれない。

「行くか」
「ん」

 黒埼に声をかけると、少年たちに手を振ってから2人並んで歩き出す。

「あのっ!」

 後ろから大きな声で呼び止められて振り返った。背の高い少年が、深々と頭を下げていた。

「ありがとうございました!」

 大きな声で礼を言われる。晃良と黒埼は顔を見合わせて、ふっと笑い合った。バイバイ、と少年たちに声をかけ、再び歩き出す。

「さ、アキちゃん、早く行こ」
「は? どこに?」
「どこって、射的んとこに決まってんじゃん。白ブタ取るから」
「いや、あれは、とっさに言っただけで……」
「なんせ男前の俺をアキちゃんが大好きで120%信じてくれてるんだから、取らないと」
「なんか勝手に尾びれ背びれが付いてんだけど……」
「たこ焼きもまた買わないといけないから時間ないし、急ご」

 全然、話聞いてねぇな。

 もの凄い勢いで射的の店へと急ぐ黒埼の背中を、あきれながら眺める。本当に自分勝手な男だ。だけど。

 けっこう熱いとこもあるんだな。

 少年たちへと割って入った黒崎を思い出して、ふと笑う。

「アキちゃん! 早く!」
「わかったって」

 離れたところから大声で叫ばれる。見失わないように少し早足で、その姿を追いかけた。
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