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Going out with you ⑮
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ポケットから財布を取り出す。ちょうど小学生の集団が打ち終えて、残念そうな声を上げたところだった。
「黒埼。俺、これやるわ」
「え? やるの?」
「ん。あのぬいぐるみ、欲しいから」
晃良は店主に金を払うと、銃を手にした。こういった屋台の射的などに使われる遊び用のコルク銃だ。レバーを引いて、コルクを詰める。体勢を落とすと、射的の台に両肘をついて、棚との距離を見ながら銃を構えた。脇を締めて、銃がぶれないように固定する。的を定めて、トリガーを引いた。次から次へと的が倒れていく。当たると倒れやすい的の右上に狙いを定めて打ち続けた。実銃とは違い、コルク銃は弾道に正確性があるわけではないので勘に頼るところも多い。神経を集中させながら勘と経験をうまく使って仕留めていく。
あと1発で10発全て打ち終える段階で一旦動きを止めて、ふうっと息を吐いた。再び銃を構える。的を選んで集中力を高めていく。トリガーを引こうとしたそのとき。
「うわぁ!! この人、すげぇっ!!」
と、いつの間にか集まっていたギャラリーの中から馬鹿でかい子供の声がして、一瞬集中力が切れた。
あ、ダメだ。
そう思ったときには遅かった。すでに指がトリガーを引いた後だった。弾は狙った位置をわずかにそれて的の真ん中に当たった。的がゆらゆらとぎごちなく揺れる。が、倒れなかった。
「ありゃ~、お兄さん、惜しかったねぇ。でも9発だから凄いよ~」
店主が残念そうだがどこか安心したような顔で、はい、賞品。と大きな駄菓子セットを手渡してきた。
「アキちゃん、惜しかったな。あれ、欲しかったんだよね?」
「まあな……でも、集中力切れた。最後で」
「俺もやる」
「え? でも……」
晃良が言い終わらない内に、黒埼は店主に金を払い終え、コルク銃を手にしていた。弾をこめ、晃良と同じように射的の台に両肘をついて銃を固定すると、おもむろに次々と打ち出した。
凄ぇな。
間髪入れず、まるで機械のような動きで確実に的を当てていく。凄い集中力で、周りの雑音など何にも耳に入っていないかのようだった。おもちゃの銃なので勝手が違うはずなのだが、本物のライフル銃だと錯覚してしまうほど、銃を持つ黒埼はさまになっていた。これが、まともな訓練を受けた人間の実力か。そう思う。もちろん、晃良も海外でそれなりの訓練には参加しているけれど。やっぱり、短期間受けただけの訓練では、軍所属だった人間には叶わない。
パタン、と10枚目の的が綺麗に倒れたところで、ギャラリーから歓声が上がった。
「お兄さん、凄いね」
店主も驚きのあまり目を丸くしていた。黒埼は賞賛の声には全く反応せず、白ギツネのぬいぐるみを指差してさっさと受け取ると、はい、と晃良に差し出した。
「もらっていいの?」
「当たり前じゃん。アキちゃんのために取ったんだし」
「……ありがとな」
ニコリとして笑顔を黒埼に向けた。すると、黒埼は目を軽く見開いた後、ゆっくりとやらしい笑顔をこちらに見せた。
「可愛い、アキちゃん」
そう言って近寄ってこようとするので、晃良はとっさに距離を取って身構えた。
「おいっ、お前、ここでハグとかしようとすんなよ。公共の場だぞっ」
「いいじゃん、別に」
「ダメだって」
「いいじゃん」
「ダメ」
「ちょっとだけ」
「ちょっともダメ」
そんな言い合いをしながら、黒埼の腕をかわして射的の店を離れた。あ、たこ焼きっ、と黒埼の意識がハグからそれたところで、ふうっ、胸をなで下ろす。ただでさえ、男2人組の上、1人がでかいぬいぐるみと駄菓子セットを持っている組み合わせで目立つのに、これ以上注目されるのは避けたかった。
「黒埼。俺、これやるわ」
「え? やるの?」
「ん。あのぬいぐるみ、欲しいから」
晃良は店主に金を払うと、銃を手にした。こういった屋台の射的などに使われる遊び用のコルク銃だ。レバーを引いて、コルクを詰める。体勢を落とすと、射的の台に両肘をついて、棚との距離を見ながら銃を構えた。脇を締めて、銃がぶれないように固定する。的を定めて、トリガーを引いた。次から次へと的が倒れていく。当たると倒れやすい的の右上に狙いを定めて打ち続けた。実銃とは違い、コルク銃は弾道に正確性があるわけではないので勘に頼るところも多い。神経を集中させながら勘と経験をうまく使って仕留めていく。
あと1発で10発全て打ち終える段階で一旦動きを止めて、ふうっと息を吐いた。再び銃を構える。的を選んで集中力を高めていく。トリガーを引こうとしたそのとき。
「うわぁ!! この人、すげぇっ!!」
と、いつの間にか集まっていたギャラリーの中から馬鹿でかい子供の声がして、一瞬集中力が切れた。
あ、ダメだ。
そう思ったときには遅かった。すでに指がトリガーを引いた後だった。弾は狙った位置をわずかにそれて的の真ん中に当たった。的がゆらゆらとぎごちなく揺れる。が、倒れなかった。
「ありゃ~、お兄さん、惜しかったねぇ。でも9発だから凄いよ~」
店主が残念そうだがどこか安心したような顔で、はい、賞品。と大きな駄菓子セットを手渡してきた。
「アキちゃん、惜しかったな。あれ、欲しかったんだよね?」
「まあな……でも、集中力切れた。最後で」
「俺もやる」
「え? でも……」
晃良が言い終わらない内に、黒埼は店主に金を払い終え、コルク銃を手にしていた。弾をこめ、晃良と同じように射的の台に両肘をついて銃を固定すると、おもむろに次々と打ち出した。
凄ぇな。
間髪入れず、まるで機械のような動きで確実に的を当てていく。凄い集中力で、周りの雑音など何にも耳に入っていないかのようだった。おもちゃの銃なので勝手が違うはずなのだが、本物のライフル銃だと錯覚してしまうほど、銃を持つ黒埼はさまになっていた。これが、まともな訓練を受けた人間の実力か。そう思う。もちろん、晃良も海外でそれなりの訓練には参加しているけれど。やっぱり、短期間受けただけの訓練では、軍所属だった人間には叶わない。
パタン、と10枚目の的が綺麗に倒れたところで、ギャラリーから歓声が上がった。
「お兄さん、凄いね」
店主も驚きのあまり目を丸くしていた。黒埼は賞賛の声には全く反応せず、白ギツネのぬいぐるみを指差してさっさと受け取ると、はい、と晃良に差し出した。
「もらっていいの?」
「当たり前じゃん。アキちゃんのために取ったんだし」
「……ありがとな」
ニコリとして笑顔を黒埼に向けた。すると、黒埼は目を軽く見開いた後、ゆっくりとやらしい笑顔をこちらに見せた。
「可愛い、アキちゃん」
そう言って近寄ってこようとするので、晃良はとっさに距離を取って身構えた。
「おいっ、お前、ここでハグとかしようとすんなよ。公共の場だぞっ」
「いいじゃん、別に」
「ダメだって」
「いいじゃん」
「ダメ」
「ちょっとだけ」
「ちょっともダメ」
そんな言い合いをしながら、黒埼の腕をかわして射的の店を離れた。あ、たこ焼きっ、と黒埼の意識がハグからそれたところで、ふうっ、胸をなで下ろす。ただでさえ、男2人組の上、1人がでかいぬいぐるみと駄菓子セットを持っている組み合わせで目立つのに、これ以上注目されるのは避けたかった。
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