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Don't believe in never ⑨

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 ベッドの上を移動して黒埼へと近づいた。黒埼の肩に触れる。

「黒埼……」

 黒埼が、ゆっくりと顔をこちらに向けた。真剣な瞳で見つめられる。そこには、いつものふざけた表情の黒埼はいなかった。

「ごめん」
「…………」
「俺、最初から思い出すの諦めてた。お前があまりにも非常識で変態で我儘いっぱいだったから、怒りの方が先にきてた。だけどお前からしたら、忘れられたままってやっぱ嫌だよな」
「……今、めちゃくちゃ俺へのディスりが入ってた気がしたんだけど」
「ディスりじゃない、本当のことな」

 本当のことって! とツッコんでくる黒埼を無視して話を続ける。

「とにかく、俺、ちょっと頑張ってみるな。全部思い出せるかわかんないけど」
「……ほんとに?」
「ん」
「アキちゃん……」

 黒埼の手が晃良の頬に伸びてきた。優しく包まれる。頭の中で素早くこの状況を考える。黒埼のことだ。このチャンスを逃すはずがないだろう。このまま体の関係を強要される(襲われる)可能性が高い。さっきの様子からすると、黒埼の本気の力にかかれば晃良がそれを回避することはなかなか難しそうだ。武力では晃良も相当自信はあるが、このバスローブが晃良の動きをかなり制限するため、互角に戦えるのかどうかわからない。

 脱いで戦うか。それとも、大人しく抱かれるか。

 いつかの、ホテルで黒埼に襲われたときのように、二択を迫られる。ここで抵抗して貞操の危機を回避できたとしても。自分と関係を持つまでは今後の黒埼の攻撃は止まらないだろう。ならば、1回でも体を提供したら満足して意外にあっさり引くかもしれない。何が原因かはわからないが、体の関係になったや否や離れていった、今まで付き合ってきた男たちのように。

 晃良は後者を取った。覚悟を決めて黒埼を見る。

 黒埼は暫く晃良をじっと見つめていたが、ふっと笑って、触れていた手を離した。

「帰ろ」

 その意外な言葉に、晃良は驚いた。

「……ヤんねぇの?」
「アキちゃん、俺とヤりたかった?」
「いや、そういうわけじゃないけど……絶対強要されると思ったから」
「無理やりはヤらないって言ったじゃん」
「……そのわりにはさっき無理やり指入れてきたし」
「あれは別。ちょっと、お仕置き的な?」
「なんでお仕置きされなきゃなんないんだよ」
「だから。他の男とヤろうとしたからじゃん。嫉妬だって、嫉妬」
「男の嫉妬はみっともないぞ」
「みっともなくていいの。それくらい、アキちゃんが好きってことだから」
「……だけど、俺はお前のもんではないからな」
「いや、俺のもんだけど。別に認めなくてもいいよ。どっちにしろ関係ないし」
「どういう意味だよ」
「アキちゃんがどうだろうと、俺はアキちゃんを自分のもんだと思ってるから。アキちゃんに近づいてくる奴がいたら」

 黒埼がニヤリと晃良へ口角を上げて笑った。

「容赦しない」

 その不気味な黒埼の笑顔と、静かに吐かれた声音に、消防士の男が無事で帰れたことに晃良は心底ホッとしたのだった。
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