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Just the beginning ㉘
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「わかった。何?」
「あれから、ガッちゃん、本当に元気なくなっちゃって。膝抱えてじっとしてるんだけど、1日中」
「はあ……」
「ホテルから1歩も出ないし。ご飯もほとんど食べないし。本当にアッキーに悪いことしたって凄く反省してて」
「まさか」
「そのまさかなんだけど。実は俺もびっくりしてて。ガッちゃんって、辛いこととかあってもあんまり落ち込んだ姿とか見せないし、いつも淡々としてるんだけど。今回だけは、ただの腑抜けみたいになっちゃって」
「うわぁ、めちゃくちゃ惚れられてるね、章良くん」
横から楽しげに口を挟む尚人をじろりと睨む。
「確かに、ガッちゃんのやったことは、一方的で最悪だと思う。まさか、頼まれた銃をあんな風に使うとは思ってなかったし。だけどあれも、長年想ってきたアッキーへの気持ちが爆発したって言うか……。ギリギリまで我慢してたから、暴走しちゃったんだと思う。だから、決してアッキーを傷つけようとか、弄ぼうとかそんなんでしたわけでは絶対ないし。それだけはわかってほしくて」
「……そう言われても急にはいそうですか、とは思えないんだけど……」
「うん、わかってる。だけど、せめてガッちゃんに一言アッキーに直接謝るチャンスをくれないかなと思って。今夜は俺が勝手に来ただけでガッちゃんは知らないんだけど。明日アメリカへ帰らきゃいけなくて、ガッちゃんはこのままアッキーに会えずに帰ると思ってる」
「…………」
「一晩、考えてみてくれないかな。それで、駄目だったら、ほんとにもう、しょうがないと思うし、ガッちゃんにももう二度とアッキーの前に現われないように言い聞かせるから」
お願いしますっ!と再び深く頭を下げられた。章良は正直迷っていた。あの黒崎が本当に素直に謝るだろうか。有栖は独断で来たなんて言っているが、もしかすると、これも例えば章良を拉致するためとか、今度こそ無理やり犯すとかなんとかいう計画の可能性もなくはない。
ただ、次は章良のガードも堅くなっていることはわかっているだろうし。こんな数日の間にそんな計画を何度も実行するのも賢明ではないだろうし。
「わかった。ちょっと考えてみる」
「ほんとに??」
嬉しそうに有栖が顔を上げた。ありがとう、アッキー。と抱きつかれ、章良は苦笑いしながらも、有栖の背中を軽く抱き締め返した。この有栖という青年は、どこか憎めない。まだ会って数日、しかも過ごしたのはほんの1日なのに。まるで何年も友人だったような感覚さえする。
その後コーヒーを飲みながら、尚人も交えて少し世間話をした。どうやら有栖はアメリカでの永住権は取得しているらしいが、国籍は日本人のままらしい。高校からアメリカに渡り、黒崎とはそこで出会ったそうだ。それ以来ずっと友人として付き合ってきたが、黒崎が研究所に入るタイミングで黒崎の秘書も兼ねた研究助手として一緒に入所したそうだ。それからは有栖が黒崎の身の回りの世話をしているという。
1時間ほど過ごして有栖は帰っていった。アッキー、待ってるからね~、と帰り際に手を振りながら言われて、章良は何と言っていいかわからず言葉を濁しつつ、手を振り返した。
有栖の話によると帰国便は夕方発らしく、午前中はまだホテルにいるはずだと言うことだった。
さて。どうするか。
そう思いながら、玄関から戻って再びソファに座ると、コーヒーカップを片づけて戻ってきた尚人が隣に座った。
「どうすんの? 章良くん」
「わからん」
「本当に?」
「……どういう意味?」
そう言って尚人をチラリと見ると、尚人のニヤニヤした顔とばっちり目が合った。そのニヤけた顔のまま、尚人が確信を持った声で答えた。
「だって。もう、決まってるでしょ?」
「あれから、ガッちゃん、本当に元気なくなっちゃって。膝抱えてじっとしてるんだけど、1日中」
「はあ……」
「ホテルから1歩も出ないし。ご飯もほとんど食べないし。本当にアッキーに悪いことしたって凄く反省してて」
「まさか」
「そのまさかなんだけど。実は俺もびっくりしてて。ガッちゃんって、辛いこととかあってもあんまり落ち込んだ姿とか見せないし、いつも淡々としてるんだけど。今回だけは、ただの腑抜けみたいになっちゃって」
「うわぁ、めちゃくちゃ惚れられてるね、章良くん」
横から楽しげに口を挟む尚人をじろりと睨む。
「確かに、ガッちゃんのやったことは、一方的で最悪だと思う。まさか、頼まれた銃をあんな風に使うとは思ってなかったし。だけどあれも、長年想ってきたアッキーへの気持ちが爆発したって言うか……。ギリギリまで我慢してたから、暴走しちゃったんだと思う。だから、決してアッキーを傷つけようとか、弄ぼうとかそんなんでしたわけでは絶対ないし。それだけはわかってほしくて」
「……そう言われても急にはいそうですか、とは思えないんだけど……」
「うん、わかってる。だけど、せめてガッちゃんに一言アッキーに直接謝るチャンスをくれないかなと思って。今夜は俺が勝手に来ただけでガッちゃんは知らないんだけど。明日アメリカへ帰らきゃいけなくて、ガッちゃんはこのままアッキーに会えずに帰ると思ってる」
「…………」
「一晩、考えてみてくれないかな。それで、駄目だったら、ほんとにもう、しょうがないと思うし、ガッちゃんにももう二度とアッキーの前に現われないように言い聞かせるから」
お願いしますっ!と再び深く頭を下げられた。章良は正直迷っていた。あの黒崎が本当に素直に謝るだろうか。有栖は独断で来たなんて言っているが、もしかすると、これも例えば章良を拉致するためとか、今度こそ無理やり犯すとかなんとかいう計画の可能性もなくはない。
ただ、次は章良のガードも堅くなっていることはわかっているだろうし。こんな数日の間にそんな計画を何度も実行するのも賢明ではないだろうし。
「わかった。ちょっと考えてみる」
「ほんとに??」
嬉しそうに有栖が顔を上げた。ありがとう、アッキー。と抱きつかれ、章良は苦笑いしながらも、有栖の背中を軽く抱き締め返した。この有栖という青年は、どこか憎めない。まだ会って数日、しかも過ごしたのはほんの1日なのに。まるで何年も友人だったような感覚さえする。
その後コーヒーを飲みながら、尚人も交えて少し世間話をした。どうやら有栖はアメリカでの永住権は取得しているらしいが、国籍は日本人のままらしい。高校からアメリカに渡り、黒崎とはそこで出会ったそうだ。それ以来ずっと友人として付き合ってきたが、黒崎が研究所に入るタイミングで黒崎の秘書も兼ねた研究助手として一緒に入所したそうだ。それからは有栖が黒崎の身の回りの世話をしているという。
1時間ほど過ごして有栖は帰っていった。アッキー、待ってるからね~、と帰り際に手を振りながら言われて、章良は何と言っていいかわからず言葉を濁しつつ、手を振り返した。
有栖の話によると帰国便は夕方発らしく、午前中はまだホテルにいるはずだと言うことだった。
さて。どうするか。
そう思いながら、玄関から戻って再びソファに座ると、コーヒーカップを片づけて戻ってきた尚人が隣に座った。
「どうすんの? 章良くん」
「わからん」
「本当に?」
「……どういう意味?」
そう言って尚人をチラリと見ると、尚人のニヤニヤした顔とばっちり目が合った。そのニヤけた顔のまま、尚人が確信を持った声で答えた。
「だって。もう、決まってるでしょ?」
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