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Just the beginning ⑭

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「涼も気をつけろよ。あいつ、かなりの男好きだぞ、たぶん」
「大丈夫じゃね? 章良くんだからでしょ? 俺、男にモテたことないし」
「どうだか……」
「だけど、若かったんだよな? 良かったじゃん、おっさんじゃなくて。章良くん好みだった?」
「顔は好みだけど、性格最悪」
「あ、そうなんだ。俺、耐えられるレベル?」
「キレるかもな」
「マジで?」
「ん」

 短気で気が強い涼なら、開始10分で黒埼の傍若無人さにキレる可能性は十分にあった。

「だけど、今回報酬凄ぇんだよな?」
「まあな。破格の額だな」
「そしたら、俺、頑張るわ。キレねぇように。新しいPC買いたいし。他にもいろいろ」
「まあ……特に危険が迫ってるわけじゃないし。重要人物だから念のための警護なんだろうけど……」
「……何か気になんの?」
「ん……。本当に今回、国から警護依頼が来たのかって……」
「違うの?」
「わかんねぇけど。だけど、どうもクライアントに危機感がなさ過ぎるし。警護なんて、ほんとは要らないレベルなんじゃねぇかなと思って」
「でも……重要人物なんだよな?」
「まあ……」
「どっちでもいいんじゃねぇの? 要らないレベルだったらそれはそれで楽だし、よくない?」
「そうだけど……」
「とりあえず、交代時間過ぎてる。行こ」
「ん……」

 涼に促されて、黒崎と有栖が滞在するホテルのスイートルームへと向かう。ノックをして応答を待った。はぁい、と有栖の間延びした声が聞こえ、ホテルのドアが開いた。

「どうぞ」

 笑顔の有栖に迎えられ、挨拶をして中へと入る。少し進むと広い客室に出た。そこにあるいかにも金持ちが好きそうな趣味の悪い大きなソファで、寝転がって漫画を読んでいた黒崎が顔を上げた。

「あれ。アキちゃん、その人、誰?」
「交代の時間なので、後任の酉井を連れてきました」

 そう言って、涼のほうを振り返る。涼は黒崎の顔をじっと見て、何か考えている風だった。怪訝に思いながらも、涼に挨拶を促す。

「涼」

 小さな声で声をかけると、涼が黒崎の顔を見つめたまま挨拶をした。

「国際ボディーガード協会から派遣されてきました、酉井です。宜しくお願いします」
「ああ、そうか。交代するのか。酉井さん? だった? 宜しく」

 黒崎は涼には全く関心がないようで、さらっと挨拶をすると、章良のほうへと向いた。

「アキちゃん、明日の朝また交代してくれる予定?」
「そうですね。昼間は僕が警護するようにとのそちらのご指示ですので。それと、自宅から少し離れていますので、今夜はこちらのホテルで宿を取りました。なので、何かあった際には私もおりますので」
「ふーん。わかった。なんかアキちゃん硬いな。今日1日一緒に過ごした仲なんだし、タメ口でいいのに」
「……仕事ですので」
「そっか。そしたら、またな、アキちゃん」
「失礼します」

 涼に目で合図して部屋を出ようとしたとき、涼がニヤニヤした顔をして口パクで聞いてきた。

『「アキちゃん」って何?』

 章良はそれを無視して、きもち乱暴にホテルのドアを閉めた。
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