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Just the beginning ⑬

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「章良くん、大丈夫?」
「大丈夫じゃない。死ぬわ……」

 涼との交代時間。早朝から夕方まで黒崎の警護をしていた章良は、あまりの疲労に、廊下の壁にぐったりと凭れて呟いた。

 予想どおり、色々な意味で過酷な警護だった。いや、警護と言えるのか。空港から出て早々、遊園地へ行きたい、と言い出した黒崎に付き合い、なぜか章良も有栖と3人で乗り物に乗らされ、キャラクターと記念撮影だの、パレードに参加だの、まともに警護させてもらえなかった。3人の内2人がスーツ姿、1人が部屋着スウェットで周りからも完全に浮いていたし。

 遊園地へ着くと、黒埼が眼鏡を外していたので、伊達眼鏡かなと思っていたところ、弱い度付きの眼鏡だと有栖が教えてくれた。日常生活を送るには全く問題ない視力らしいが、研究時には細かい作業が必要となるため、補助として付けているそうだ。警護される立場で顔隠しに便利なのもあるし、研究時以外にもたまにアクセサリー感覚で使っているらしい。ちなみに「ガッちゃん」という愛称は黒埼の「氷雅」の「が」から取ったのだと章良には要らぬ情報もくれた。

 遊園地にいる間、黒崎のボディータッチが止まらなかった。おっさんのクライアントによく気に入られる章良は、クライアントのセクハラには慣れているつもりでいたが、黒崎のセクハラ攻撃はその上をいっていた。

 ベタベタとくっつかれながら、あーしたい、こーしたいと我儘放題で、有栖は有栖で、ガッちゃんはほんとしょうがないなぁ、とかなんとか言いながら全て許してしまうので、精神的なダメージをくらっているのは章良1人だけだった。

 どうひいき目に見ても、インテリ科学者には見えなかった。金持ちの家で育った我儘で横暴なドラ息子にしか見えなかった。

 クライアントじゃなかったら、その場で正座させて説教するレベルなのに。それができないストレスに章良の疲労は溜まる一方だった。

 そして、悔しいことに。眼鏡を外した黒埼は、想像を超えたイケメンだった。切れ長の猫目で、鼻がすっと形がよく伸び、少し厚みのある唇が色っぽかった。色白の肌も透明感があって、それがまた綺麗な顔つきを助長していた。髪もツヤのあるストレートの黒髪でさらさらだった。よれよれのスウェットという身なりでも、周りの女の子たちが振り返るくらいのイケメン度を保っていた。この事実は、綺麗な顔が好みの章良をなんとも複雑な心境にさせた。
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