太陽、時々悪魔

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甘い逢瀬

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 会うのは決まってこいつの部屋だった。お互いなんとなくその時期が分かる。仕事中にいつもより視線が絡まることが増えて、見つめ合う時間が長くなる。

 そうして見つめ合う度に、こいつは笑うんだ。誘うように。艶めかしく。

 誰も気づかないのだろうか。最初はそう思った。いつものこいつの代名詞みたいな明るい太陽みたいな笑顔じゃなくて。色気を含んだ、妖艶に輝く月みたいな笑顔。仕事中であろうと、休憩中であろうと。その時期がくると、あの笑顔を桜井に向ける。だから、他の連中だって目撃していてもおかしくないのに。誰も何も言わない。

 もしかしたら分かっていて黙っているのかもしれない。次にそう思った。でも、その必要性が分からない。桜井と井上の関係は気づかれていないはずだ。

 そうして周りに懐疑的になっていたこともあったが、時間が経つにつれて誰も気づいていないと最終的に結論づけた。あの、井上の笑顔が妖艶に見えるのは自分だけなのだと。

 花々が放つ甘い匂いに誘われて飛んでいくミツバチのように、気づくとあの笑顔に惹かれてここに辿り着き、こいつと抱き合っている。こんな風に。

「はっ……あっ……」

 汚れの1つもない、完璧過ぎるほど清潔に保たれたままの浴槽の中。桜井はたっぷりと張ったお湯に浸かりながら、目の前で後ろ向きに座る井上の体に手を這わせていた。両手の指先は休むことなく井上の胸の両突起を弄り続ける。

 もうかれこれどれくらいこの状態でいるだろう。ふと、考える。井上を風呂へと誘って、それぞれ体を洗ってから湯船へと一緒に入った。最初はぽつぽつとたわいのない話をしていたが、急に井上へと触れたくなった。

『井上、後ろ向いて』

 そう言うと、井上は何も言わずに言われたとおり桜井に背を向けて座り直した。両脚を開いてその中に井上を引き寄せた。水中でゆっくりと両手を井上の肌に這わせて、そこから井上の胸へと手を伸ばした。それが確か10分ほど前だったか。それから桜井はただ、井上の胸だけを弄り続けた。他はどこも触れずに。

「あっ……あんっ……」

 もう随分と前に硬く、敏感になった胸の先を弄る度、井上がびくりと反応して声を上げた。苦しそうな吐息が合間に漏れる。他の快感も得たくて疼く体を持て余している井上の姿を見て楽しんでいた。
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